世界的な新型コロナウイルスのパンデミックで音楽業界は破壊的な打撃を受けたが、15か月ぶりにアメリカ全土でコンサートが再開した。米ビルボードでは、「My First Show Back」と題し、今何が起きているのか、何が永遠に変わってしまったのか、そして何が変わらないのかをツアーの収益構造を通して紹介する。
今回は米南カリフォルニアにあるキャニオン・クラブのオーナーであるランス・スターリングが、現地時間2021年6月15日に実施したフー・ファイターズのウォームアップ・ショーについて紹介する。600枚のチケットを販売したこの公演は、同州のコンサートの再開となり、会場の救済を目的として開催された。
デイヴ・グロールを始め、フー・ファイターズのメンバーはこの会場の近くに住んでおり、キャニオン・クラブをよく訪れているという。フー・ファイターズの代理人であるドン・ミュラーは、クラブの経営が苦しいこと、そして助成金が支給されていないことを知っていた。
スターリングはミュラーからの電話で、「(フー・ファイターズが)この日程を必要としてる。ランス、私を信じろ。日程を抑えてくれ」と言われたという。フー・ファイターズなら、どんな高額なチケット代金でも600枚を売ることはできただろうし、実際1,000ドル払うと、スターリングに提示したファンもいたようだ。だが、メンバーはチケットは、オフラインで26ドル(約2,600円)で販売することを決め、本イベントを開催するために3~5万ドル(約330万円~550万円)を負担した。フー・ファイターズから、スターリングに提示された契約書には、「出演料は0ドル」と書かれていたようで、売上は全てクラブに渡された。スターリングは、このことについて「この契約書は保管しておきます。額に入れて飾ろうと思います」と述べている。
また、チケット販売の12時間前に告知をしたところ、600枚のチケットに3,000人が殺到。公演日には、フー・ファイターズが会場のドアを開けっ放しにすることを許可したことから、800人ものファンが駐車場からライブを見ることができたようだ。また参加者がインターネットに投稿した映像を通じて、約11万7,000人のファンが、そのライブを見ることができたという。
また公演当日、会場の外では反ワクチンの抗議活動が行われた。スターリングは「彼らにも抗議をする権利がある」と言いつつも、「私は与えられたルールを実行しているだけです。もし(保健所が)、会場を営業するためにピンク色のバレリーナの衣装とTバックを着ろと言われたら、それに従います」と延べ、当日はその対応に追われた。現在、キャニオン・クラブは1,100万ドル(約12億円)の負債があり、営業を再開することで、その返済をしなくてはいけないからだ。
スターリングは、「フー・ファイターズのような寛大なバンドと仕事ができることは素晴らしい」と言い、その後 ウィルソン・フィリップスから「無料コンサートをしたい」と電話があったこと、トード・ザ・ウェット・スプロケットやREOスピードワゴンが、当日会場に来ていたことを明かした。
フー・ファイターズは他の人がどう思うかを意識するのではなく、彼らが正しいと思うことを行っている。そしてフー・ファイターズの行動を見た他のグループは、地元の会場を支援するだろう。
スターリングは「これらのバンドが助けに来てくれたことに、毎日感謝しなければなりません。彼らは、キャニオン・クラブで演奏する必要がありません。REOスピードワゴン、パット・ベネター、エア・サプライは、私たちが音楽業界の未来に繋がっていると信じているからこそ、キャニオン・クラブで演奏してくれるのです」と締めくくった。