
――「なんで生まれてきたんだろう?」という根源的な問いは、私自身の中にもあるもので、だからこそ衝撃を受けました。それと同時に、この合意出生制度が作られる背景として、「五十数年前、『失われた三十年』の末に日本が迎えたのは、世界を席巻する流行り病の災いだった」と書かれています。この設定には現在の新型コロナウイルスの流行などの状況も反映されていますか?
李:現実から着想を得たところもあるんですけど、この小説で描いているのは、現在の無条件に生を喜び、死を弔うような人間の死生観が完全にひっくり返っている世界なんです。それぐらい大きな転換をするためには、大きな出来事が必要になる。戦争がきっかけになる可能性もあると思うんですけれども、今はまさにコロナが流行っている状態で、そこから着想を得てさらに極端に考えてみたということです。
(2021年10月28日、東京・築地にて/構成:橋本倫史)
※【「殺意も産意もつまるところ、他者を意のままに操りたいという人間の最も根本的な願望の発露にほかならない」芥川賞作家・李琴峰インタビュー<後編>】へつづく