
──作品の前半、司馬さんは正岡子規に多くのページを割いている。
司馬さんが子規に感情移入していることがよくわかります。平易な言葉で、写実に徹した俳句を残したわけですが、その点で子規の世界は映像が浮かびやすい。
司馬さんは日露戦争というデリケートなテーマを丁寧に描かれた。自分の手を離れて映像化されることに危機感を持ち、生前は許可されなかったと伺っています。幕末や戦国だと独自の表現でイメージの幅を広げられますが、今回の『坂の上の雲』の取材では、自分を出さない映像表現を心がけました。司馬さんの言葉頼みであり、写実を心がけたつもりです。

(聞き手 本誌・村井重俊)
※週刊朝日 2022年10月28日号