今、「クリエイティブディレクター」という仕事の中身が大きく広がってきています。デザインやコピーライティングといった「表現のクリエイティブ」ではなく、クライアントが抱える課題の本質を理解し、解決策を実施していく「ビジネスのクリエイティブ」が求められているのだそうです。
広告代理店の電通で10年間、広告営業などのセールスマンとして働いたのち、2005年に「dof」を設立した齋藤太郎さんも、そうした仕事をおこなうひとり。これまでdofでは、サントリー「角ハイボール」やソースネクスト「ポケトーク」など数々の大型案件を手がけてきました。そのほとんどに共通するのが、広告を作るだけではなく、課題解決に主眼を置いている点です。
齋藤さんの著書『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』には、そうした仕事の極意が満載。クライアントの依頼を解決するためのプロの思考とノウハウが余すところなく記されています。
たとえば先述したサントリー「角ハイボール」。ウイスキーの消費量が右肩下がりで落ち込んでいる状況をなんとかするべく、齋藤さんがまず掲げたのが「新オヤジたちに、角ハイボール。」というコンセプトワードです。30代中頃のサラリーマンをメインターゲットに据え、俳優・小雪さんをCMタレントに起用。それにより「ウイスキーは50代、60代のシニア層が飲むもの」というイメージにちょっとした変化が生まれました。
さらに、料理サイトと提携したり、JR新橋駅の発車メロディーを期間限定でコマーシャルソングに変更したり、由比ヶ浜で角ハイボールガーデンを開いたりと数々のプロモーションを展開。その効果はじわじわと表れ、ハイボールはキャンプ場やフェスなど屋外でも若者に飲まれるほど大きな広がりを見せることとなりました。ウイスキーの売り上げは2008年から反転攻勢し、右肩上がりで過去最高記録を更新したそうです。
ちなみに、角瓶1本から作れるハイボールは23杯。提供するお店にとって利益率の高い商品だったことも普及を大きく後押ししたと齋藤さんは言います。
「何度も触れているように、広告だけで何とかできる時代では、もはやありません。こうした業界の収益構造や力学を知っておくことも、ビジネスの課題を解決する上で非常に重要なのです」(同書より)
既存の商品に新たな文化や価値を付加するノウハウは、クリエイティブディレクター以外の職業の人にとっても参考になる部分があるのではないでしょうか。
課題の見つけ方から仮説や解決策の立て方、課題解決力を高める技術やマインドまで、さまざまな「ビジネスのクリエイティブ」が学べる同書。クリエイティブディレクターを目指す人はもちろん、目の前の課題を解決する力を養いたいビジネスパーソンにもおすすめの一冊です。
[文・鷺ノ宮やよい]