今年も早いもので三月、弥生となりました。本日3月5日は、二十四節気「啓蟄(けいちつ)」。一雨降るごとに気温があがり暖かくなっていくころ。めっきり強くなった陽差しと、仲春の陽気に誘われて、生きとし生けるものすべてが新たな活動へと目覚めます。

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仲春の陽気に誘われて、ちぢまる虫、穴をひらき出ずればなり

陽気地中に動き、ちぢまる虫、穴をひらき出ずればなり。(暦便覧より)
冬ごもりの虫がはい出るとされる、二十四節気の「啓蟄(けいちつ)」となりました。
啓は「ひらく」、蟄(ちつ)は「土中で冬ごもりしている虫」の意。一雨ごとに温もった大地に春が訪れ、樹木は芽を伸ばし、虫たちは活動を再開し、次々と可憐な花たちが開きだします。
梅や椿、早咲きの桜の花の美しさが目を引くこのころ、一見地味な存在ながら、その香りで春の訪れを告げてくれる低木の花木「沈丁花」も次々と花を咲かせます。
お香として親しまれる「沈香(じんこう)」の高貴な香りと、香辛料に使われる「丁子」(クローブ)に花の姿が似ているところが、その名の由来とされる沈丁花。
まだ少し冷たい仲春の風に漂う、この花の上品で甘やかな香りに気づいた瞬間、「ああ今年も春が来たな」と思う方も多いのではないでしょうか。

仲春の陽気に誘われて、菫の花も咲きだして

低木の沈丁花からさらに目線を下にすると、足元に儚げながらもたくましく、春の小さな花たちが咲いています。
なかでもひときわ可憐な佇まいなのが菫の花。その種類は、450種以上あるといわれ、日本原産の野生菫は約80種ほど。変種などを含めると200種類以上になるということです。
「あ、小さな花が咲いている。菫だな」と思った瞬間、私たちはもう見るのをやめて通りすごしがちです。けれど、もう少し見つめる時間を長くして、つぶさに観察すれば、今まで気づかなかった美しさに改めて目を見張るかもしれません。
春の野山にほんのつかの間咲く菫の花は、恥じらいと謙虚さの象徴。ヨーロッパでは花を砂糖づけにして食すロマンチックな習慣もあり、かのエリザベート皇妃も好んでいたとか(日本でもデメルなどで販売されていたり、簡単に手作りもできます)。紅茶やショコラショーに浮かべて飲めば、一年中、春の香りを楽しめることでしょう。

仲春の陽気に誘われて、春色スイーツでほっこり

目で舌で愛でる春の花といえば、日本ではやはり桜。啓蟄の頃の桜を見ていると、まさにこれから満開の花を咲かさんと、花芽を日々膨らませる枝全体がほんのりと色づくような、生命力にみなぎっている感じがします。

さて、桜の開花まであとひと月足らずでしょうか。今年は早いのか、遅いのか、例年並なのか。そろそろその時季が気になりますね。
そうそう、今年は向島長命寺で「桜」が誕生してから300周年なのだとか。暖かい陽だまりのなか、桜湯と桜餅で、春満開の気分を一足早く満喫してみたくなる、そんな仲春・啓蟄の時分となりそうです。