(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
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 「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第1章 猗窩座再来」が公開され、「無限列車編」以来の盛り上がりを見せている。前作に続いて上弦の鬼・猗窩座が立ちはだかるが、今作では彼が抱えていた「業」に胸を打たれた人も多いはずだ。

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 心に深い傷を抱えたままの鬼・猗窩座は炭治郎と義勇との戦いの中で、救いを見つけることができるのか。なぜ猗窩座は鬼にまでなって、長い時を戦い続けたのか。

 新刊「鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城編の宿命論」を著した植朗子氏は、著書の中で、「猗窩座が強さを求め続けた理由」について紐解いている。同書から一部を抜粋変更してお届けする。

【※以下の内容には、既刊のコミックスと劇場版のネタバレが含まれます。

*  *  *

猗窩座の人生につきまとう「弱さ」

 無限城戦で明らかになるのは、猗窩座の過去のエピソードである。鬼になってからの猗窩座は「弱者に構うな」(8巻・第63話)、「よく生きていたものだ お前のような弱者が」(17巻・第146話)と、徹底的に弱者を憎む様子を見せた。

 しかし、かつての猗窩座は弱い者、とりわけ病人には優しかった。彼には病で苦しむ父がいたのだ。重病人だった父は息子(=人間時代の猗窩座)に迷惑をかけていると、いつも悲しそうな姿を見せていた。

迷惑なんかじゃなかった

何で謝るんだよ 親父は何も悪いことなんかしてないだろ

(人間時代の猗窩座/18巻・第154話「懐古強襲」)

病で苦しむ人間は

何故いつも謝るのか

(人間時代の猗窩座/18巻・第155話「役立たずの狛犬」)

 重病人の看護の苦しさは〝美談〞ですむようなものではない。「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第1章」でも、とある人物が、看病が原因で入水自殺をしている描写がある。看病苦とは日々蓄積する疲労だけでなく、死期が見通せないことや、完治しないこと、死による別離への不安や絶望など、様々な要因によって引き起こされる。

 しかし、人間時代の猗窩座は、病人の着替えも、一晩中の看病も、あっさりと「たいしてつらくもない」と言い、病人が回復の兆しを少しでも見せると「俺の心は救われた」(18巻・第155話)とさえ言っている。どんな病も治ると信じて心を込めて看病し、それが報われると喜ぶ……子どものように純真なかつての猗窩座の心が垣間見える。

きっと治す

助ける

守る

(猗窩座/18巻・第154話「懐古強襲」)

 しかし、優しかったかつての猗窩座の淡い希望も決意も、大切なものの喪失によって、「儚い妄言」へと変わってしまう。

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