なぜ自分は武を求めたのか。なぜ素手という方法によって強さを極めようとしたのか…。そんなことを考える猗窩座の前に立ちふさがった義勇は、深い傷を負いながらも「炭治郎を守る」という強い決意を見せた。
もう二度と
目の前で 家族や仲間を死なせない
守る 炭治郎は俺が守る
自分がそうしてもらったように
(冨岡義勇/18巻・第154話「懐古強襲」)
炭治郎を思う、義勇の深い愛情と優しさ。弟弟子と〝ともに生き抜くため〞に戦うことを教える、善き師、正しい武人のあり方を、猗窩座は義勇の言動から感じとった。義勇が猗窩座の頑なさを解きほぐし、「人としての心」を呼び起こしていく。
■義勇の「美しさの本質」と弱さ
『鬼滅の刃』という物語において、義勇はたびたび「美しい男」として描写されるが、義勇の「美しさの本質」は、その突出した容姿や類稀なる剣技の才にあるのではなく、彼の心の内にある。
冨岡義勇は「強い」から、皆を守るのではない。人を失うことを誰よりも恐れ、悲しみから立ち直れぬ「弱き心」があるからこそ、大切な者が奪われるその瞬間を徹底的に拒む。義勇の「弱さ」は、優しさと強さの源になっている。「弱さ」を忌避しつづけてきた猗窩座が知らなかった理想の生き方が、義勇の中にあった。
義勇との対決のあと、猗窩座の心は救われることができるのか。鬼としての戦いの意味を猗窩座はどのように受け止めていくのだろうか。「劇場版 『鬼滅の刃』無限城編 第1章」では、「その後の猗窩座」の変化を見ることができるだろう。
《新刊『鬼滅月想譚 ――「鬼滅の刃」無限城戦の宿命論』では、第2章で「義勇と猗窩座の“トラウマの共通点”」についても詳述。猗窩座vs煉獄杏寿郎、胡蝶しのぶvs童磨など、悲しみの対決に込められた「意味」についても紐解いている》

鬼滅月想譚 『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論