(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
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 「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第1章 猗窩座再来」が18日に公開され、「柱」や炭治郎たちの印象的なセリフの数々が話題になっている。同作では、水柱・冨岡義勇の活躍も見逃せない。

【画像】猗窩座より強い?「無限城編」に登場する上弦の鬼はこちら

 新刊『鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城編の宿命論』(朝日新聞出版)を著した植朗子氏は、著書の中で「義勇の弟弟子への愛情」や、彼の「美しさの本質」について言及している。同書から一部を抜粋変更してお届けする。

【※以下の内容には、既刊のコミックスと劇場版のネタバレが含まれます。

*  *  *

■鬼のさらなる「怪物化」

 鬼たちは人間よりもはるかに強い肉体を持つ。しかし、その一方で、弱点である「頚(くび)」が切断されると、そこで「鬼としての死」をむかえることになる。ただ、この弱点を克服できる鬼が数体だけおり、猗窩座もまたその岐路に立つことができる、数少ない「選ばれし鬼」だった。

 猗窩座は炭治郎たちから攻撃を受けたのちも「敗北」を決して認めようとせず、戦いへの強い意志を見せつづけた。それは「鬼・猗窩座」というよりも、鬼よりもさらに「怪物化」が進んだかのような、おぞましい姿だった。

まだだ!! まだ戦える!!

俺はまだ強くなる

終われない こんな所で

俺は強くなる

誰よりも 強くならなければ

強く もっと強く…!!

(猗窩座/18巻・第153話「引かれる」)

 すさまじい執念によって、猗窩座は人ではなく、鬼とすらいえない、新しい「怪物」に変貌しはじめた。それを察知した炭治郎は、「今 変わろうとしてる…!! 猗窩座も 別の何かに…!!」(18巻・第153話)と息をのんだ。

■「怪物化」する猗窩座、義勇の言葉

 もともと人間が鬼化すると記憶は欠け、捕食欲求や残虐性が高まる。それでも、彼らの中には人間時代に持っていた夢や願いの欠片(かけら)がわずかながらに残されるようだった。それこそが、鬼の中に眠り続ける「人間らしさ」にほかならない。しかしながら、「鬼としての死」すらも通過してしまうと、人らしい要素はそこで完全に失われてしまう。

 死闘の果てに、“より恐ろしきモノ”へと変貌を遂げようとする猗窩座を前にして、水柱・冨岡義勇が振り絞るよう言葉を発した。

待て

俺は…まだ…生きてるぞ…!!

炭治郎を殺したければ

まず俺を倒せ…!!

(冨岡義勇/18巻・第153話「引かれる」)

 この言葉には義勇の剣士としての矜持(きょうじ)、さらには命をかけて弟弟子・炭治郎を守ろうとする、彼の深い愛情が込められていた。義勇の言葉がきっかけとなって、猗窩座の心は過去へ、人間だった頃の記憶を遡っていく。

不屈の精神 どんな苦境に立たされても 決して折れない

俺たちは侍じゃない 刀を持たない

しかし心に太刀を持っている

使うのは 己の拳のみ

(猗窩座/18巻・第153話「引かれる」)

 過去の記憶が猗窩座の心を揺り動かす。

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