獪岳にまつわる回想では、善逸が何度も弱音を吐くことについて、彼から激しく叱責されていました。この経験は、善逸に「なぜ自分は戦うのか」と考えさせる機縁になっています。さらに、鬼との戦闘中に力尽きかけた時、桑島の「諦めるな!!」という言葉が聞こえてきて、善逸に力を与えました。桑島との思い出によって、善逸は「雷の呼吸」の後継者にふさわしい自分であらねばと考えるのです。
夢を見るんだ 幸せな夢なんだ
俺は強くて 誰よりも強くて
弱い人や 困っている人を
助けてあげられる いつでも
じいちゃんの教えてくれたこと 俺にかけてくれた時間は
無駄じゃないんだ
じいちゃんのお陰で強くなった俺が
たくさん…人の役に立つ…夢
(我妻善逸/4巻・第34話「強靭な刃」)
これこそ善逸が叶えたかった「夢」です。この場面から、善逸にとって「戦うこと」は、すなわち「雷の一門」の日々を記憶からたぐり寄せることと同義なのだということが分かります。この時の善逸には彼らとの“日々の思い出”が必要でした。だからこそ彼は昏倒し、まるで「夢の中」にいるかのように振る舞い、戦います。
これまでの〝弱かった善逸〞に力を与えてきたのは、彼が目を閉じた時に浮かんでいた、桑島と獪岳との記憶でした。しかし、無限城の決戦では、善逸はこれまでのように「夢の中」で戦うことはできません。戦闘の最中に、善逸は「ごめん」の言葉を何度もくり返します。大切なの人たちとの別れ…善逸の目から涙があふれ出しました。
失意の中にあっても、鬼との苛烈な戦いは続きます。その後、善逸は「雷の呼吸」の唯一の継承者として、無限城の決戦の場に最後まで立ちつづけなくてはなりません。「夢」から醒めた善逸の目に映るのは、大切な仲間と大好きな禰豆子の姿です。彼らが笑顔を取り戻す瞬間を善逸は見つめることができるでしょうか。
《新刊『鬼滅月想譚 ――「鬼滅の刃」無限城戦の宿命論』では、猗窩座vs冨岡義勇、猗窩座vs煉獄杏寿郎、胡蝶しのぶvs童磨など、悲しみの対決に込められた「意味」を紐解いている》
