我妻善逸(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
我妻善逸(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
この記事の写真をすべて見る

 「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」が18日に公開され、クオリティの高いバトルシーンなどが早くも話題になっている。同作では雷の呼吸の使い手・我妻善逸の戦いぶりも見どころの一つ。“弱虫キャラ”だった善逸の、急成長の要因は何だったのか。

【画像】猗窩座より強い?「無限城編」に登場する上弦の鬼はこちら

 新刊「鬼滅月想譚:『鬼滅の刃』無限城編の宿命論」(朝日新聞出版)を著した植朗子氏は、善逸の強さの根源について分析している。同書から一部を抜粋変更してお届けする。

【※以下の内容には、既刊のコミックスと劇場版のネタバレが含まれます。

*  *  *

■“泣き虫”の善逸

 無限城の決戦において、我妻善逸には、驚くほどの成長が見られました。蟲柱・胡蝶しのぶの説明によると、「上弦の強さは少なくとも柱3人分の力」(19巻・第162話)らしいのですが、これより前、善逸はすでに上弦の陸(ろく)(注:遊郭の鬼)との戦いで勝利に大きく貢献していました。

 「遊郭の戦い」に加わっていたのは、柱である宇髄天元、そして炭治郎・禰豆子・伊之助・善逸ですから、遊郭の鬼が2体であったことなどを勘案してみても、この段階で善逸は「柱」に近い強さを獲得していたのだろうと推察されます。かつて下弦の伍(ご)・累(るい)たちと戦った那田蜘蛛山での善逸の〝泣き虫〞ぶりからは、想像もできないほどの進歩です。 

 あの時、善逸は「蜘蛛の糸」に吊るされていた瀕死の状態の隊士や民間人を見つけたにもかかわらず、あろうことか一度それに背を向けて、全力で鬼から逃げています。しかし、善逸は緊張が高まりすぎると、その場で昏倒してしまうという特徴がありました。そして、無意識の状態になった時に彼の真の強さが発揮され、人々を救うのです。

雷の呼吸 壱(いち)ノ型

霹靂一閃(へきれきいっせん)

(我妻善逸/4巻・第33話「苦しみ、のたうちながら前へ」)

 善逸の昏倒=〝眠り〞の状態に彼の「本心」があらわれているのだとすれば、善逸が「人を救うために戦う」ことは、彼にとって自然な行動なのだといえるでしょう。我妻善逸という人物の本質を語るためには、彼にまつわるいくつかの「夢」のエピソードについて考えていかねばなりません。

■善逸の叶わぬ「夢」

 善逸の強さの根源に「夢」が大きくかかわっているのは明らかです。ひとつは「無意識状態」と「回想」を意味する「夢」、もうひとつは「自分の理想」の体現である「夢」です。善逸は那田蜘蛛山の危機の際、自分の師である桑島慈悟郎と、兄弟子・獪岳の「夢」(=回想)を見るのですが、その2つの場面から〝弱虫の善逸〞がなぜ最前線で戦いつづけているのか、という動機が浮かび上がってきます。

次のページ 〝弱かった善逸〞に力を与えた存在