連続テレビ小説「あんぱん」第79回から©NHK
連続テレビ小説「あんぱん」第79回から©NHK

弔いのパンで無邪気な笑顔に

 嵩は、どうしようもなく人間的な感情を「面白がる」ことで、アンパンマンという普遍的なキャラクターへと昇華させた。だからこそ、アンパンマンは単なる正義のヒーローではなく、自らの顔を分け与えるという「痛み」を知る、深い共感性を備えた存在となり得たのである。

 そして80話、釜次の葬儀で6年ぶりに現れたパン職人のヤムおんちゃんこと屋村草吉(阿部サダヲ)が焼いた「弔いのパン」は、この創造への道筋をさらに明確にした。トウモロコシの粉と芋の餡で作られたあんぱんは“もどき”で完璧ではなかったが、のぶたちに無邪気な笑顔を取り戻させた。八木のコッペパンが「与えられた正義」であるとすれば、草吉の「弔いのパン」は「手作りの愛」。誰かを思う気持ちだけで作られたパンこそが、嵩がのちに創造するアンパンマンの本質ではないだろうか。

 この嫉妬の炎は次週から始まる、東京編へ持ち越された。のぶの視線は八木にとどまったままなのか、それとも嵩が巻き返すのだろうか。釜次の「ほいたらね」という最後の挨拶が、天からのエールのように響いた第16週。この1週間で描かれた嵩の心の軌跡は、創造というものの本質を私たちに教えてくれる。

(澤由美彦)

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