
多国籍で闘うのがラグビーの国際基準
「1999年のW杯で、平尾誠二さんは何もルールをねじ曲げて海外出身選手を起用したわけではありません。あくまでも国際試合の代表資格のルールに準じ、それをきちんと適用しましょうと。たとえばニュージーランド代表の『オールブラックス』にもサモアやトンガやフィジーにルーツのある選手が多数集まっています。それがラグビーの国際基準なんです」
それなのに、日本だけがその足並みから外れ、海外出身選手の出場枠を減らす方向に行こうとしている。そしてそのことは何よりも「海外出身選手への敬意に欠ける」と、平尾教授は怒りを込めて話す。
「ラグビーは大切にすべき理念として、『品位、情熱、結束、規律、尊重』という五つのコアバリューを掲げています。今回の規定変更のどこに、海外出身選手への尊重がありますか。私は一OBとして、自分たちが後の世代に手渡した『だらしのないラグビー』を一から作り直し、世界のトップチームである南アフリカに勝ったり、W杯でベスト8に進むところまで行ったいまの選手たちに、敬意しかありません。そしてまた、『誰のおかげで強くなれたのか』といえば、海外出身選手の存在によるところが大きいことも間違いない。ここへ来てそんな彼らの梯子を外すようなことをする。本当にあきれる思いです」
日本社会にある「排外主義」の萌芽
加えて平尾教授が心配するのが、日本社会にある「排外主義」の萌芽だ。いま、日本は政治の季節。外国人への規制の強化や権利の制限を強く打ち出す政党が支持を集めそうな気配もある。そんな中でラグビー選手登録の規定変更が話題になっていることについて、平尾教授は「最悪のタイミングだ」と話す。
「本来ラグビーとは、国籍などをことさら重視するのではない、多文化共生の理念を持つスポーツです。いま社会に排外主義が吹き荒れているのであればなおさら、ラグビーが内包する理念をもって『インクルーシブな集団のあるべきモデル』を社会に提示する。その大チャンスだったと思うんです。それを、あろうことか逆行する方向へと足並みをそろえるのかと。いままで作り上げてきたラグビーの文化的な価値、社会的影響力さえも減じていってしまうのではないか。そんな強い危機感を抱きます。ラグビーの関係者やファンは、いまこそ声をあげるべきではないでしょうか」
(AERA編集部・小長光哲郎)
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