
高校を中退し、ゲーム漬けの昼夜逆転生活を送っていたリュウジさん。その生活が一変したのが「実家全焼」でした。一体、何があったのか。壮絶な半生と料理哲学を語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けします。
* * *
あの日、俺はいつものように夜通しゲームをやって、昼すぎに起きました。
目の前が火の海でした。
何が現実で何が夢なのかまったくわからず、びっくりしたまま飛び起きて、急いでベランダに出ました。
幸いなことに、火が上がっていた部屋の壁とベランダの間には距離があり、避難ルートが残されていたのです。
「火事! 火事!」と隣に面している祖父母の家に向かって叫びました。
その時、俺が住んでいた家は3階建てで、俺の部屋も3階にありました。
母親は仕事で外出中でした。もし夜中に火事が起きていたら、家の構造からして、母親の部屋は逃げ道が塞がっていたかもしれません。一歩間違ったら、部屋で煙を吸って亡くなっていたんじゃないかと思います。そのくらいの火事だったのです。
俺はベランダの仕切り板を蹴り破って、隣にあった祖父母の家につながる渡り廊下になんとか逃げました。
いつの間にか消防車が来て消火活動が始まっていたのですが、飼っている犬が1匹、まだ家に残っていたんです。ガスの点検員の人が助けに行ったのですが、煙を吸ってすぐに倒れてしまって……。
すぐに消火できたから、点検員の人は一命を取りとめました。
犬はこの火災で二度と帰ってこなかった。
祖父母の家も延焼していました。祖父母は家の外に避難して、俺もなんとか無事でしたが、煙を吸っている可能性があるからと念の為、病院に搬送されました。