体を伸ばした状態での防御姿勢。顔面、頭頸部、腹部の受傷を防ぐ=秋田県提供
体を伸ばした状態での防御姿勢。顔面、頭頸部、腹部の受傷を防ぐ=秋田県提供

 実はこれまで、「防御姿勢」の有効性について、科学的なエビデンスはなかった。

 SNS上では「机上の空論」「うつぶせになって顔や頭を守っても食われるだけ」「攻撃こそ最大の防御!」と、防御姿勢を疑問視するコメントも少なくなかった。

 石垣医師は言う。

「今回の研究結果を示せたことで、防御姿勢の信頼性が高まった。市街地での人身事故で重傷化を防ぐことは可能だと思います」

市街地でクマを見つけたら

 最近、クマによる人身被害が特に多いのが岩手県だ。今年度は12人(7月4日時点)が襲われ、昨年度1年間の10人をすでに上回った。冬眠明けの春先は山での事故が多かったが、6月以降は人里でクマと遭遇するケース、いわゆる「アーバンベア」による被害が増えている。

 クマは目の前に立ちはだかったものを排除しようとする性質があるという。市街地でクマを見たら、「瞬時に車内や建物内に逃げ込んでください」と、前出の米田さんはアドバイスする。もしくは物陰に身を隠して、じっとしている。電信柱や木立のような、全身は隠れないものでも効果があるという。

「クマは目が悪い。頭と胴、手足があることで、相手が人間だと認識する。じっとしていることが大切で、手足をばたつかせては意味がありません」(米田さん)

 唐突に至近距離で出合ってしまえば、身を隠す間もない。そんな時は、うつぶせになって、防御姿勢をとることだ。

「防災というより、減災の考え方です。被害を最小限にして、救助を求めることが大切です」(同)

(AERA編集部・米倉昭仁)

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