
今年はクマによる被害が急増している。7月に入り、北海道と岩手県で計2人が亡くなった。秋田大学の医師グループらがクマに対する「防御姿勢」の有効性を科学的に確認した。
* * *
顔面がえぐられて骨折
「朝、出勤すると、すでに2人が救急外来に搬送されていて、治療を受けていました。受傷者は目をそむけたくなるほど、凄惨な状態でした」
クマに襲われてできる傷、いわゆる「クマ外傷」の凄まじさについて、治療にあたった整形外科の石垣佑樹医師(現秋田大学大学院・整形外科学講座)はこう話す。
「頭の皮がめくれ上がり、頭蓋骨が見えていた。顔面がえぐられて骨折し、眼球が飛び出ている人もいた」
2023年10月19日。北秋田市の中心部にクマが現れ、早朝から夕方にかけて、次々と6人を襲った事件。石垣医師が患者の生命を維持するための措置を施していると、さらに3人の受傷者が運び込まれた。北秋田市民病院の救急外来は騒然とした。重傷者は秋田市内の高度救命救急病院に転院搬送された。
クマが人を殴打するパワーの凄まじさ
秋田大学医学部附属病院の土田英臣医師は、クマが人を殴打するように攻撃するパワーの凄まじさを、こう語る。
「車同士の衝突事故で顔面を強打したときなどでなければ生じない、『高エネルギー外傷』と呼ばれる所見です」
23年、同病院に搬送されたクマによる外傷患者20人のうち、顔面を負傷した人は9割を占めた。目や鼻を中心に攻撃され、眼球破裂で失明した人が3人、鼻が完全にとれてしまった人も1人いた。
