リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)
リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)

一皿で満足できる理由

 モツ煮の味付けはかなりシンプルです。

 モツの臭みを消すためにニンニクを入れて、あとはかつお節とうま味調味料に味噌、味の調整をするために醤油をちょっと加えて煮込む。基本はこれだけです。

 そして実家のモツ煮には、余計なものを入れない。これが最大のポイントです。

 モツ以外の具はこんにゃくだけで、野菜は入れません。野菜の甘味で味が薄まってしまうからです。

 他の具を足すとしても、実家の場合は余った汁でせいぜい豆腐を煮るくらいで、基本は絶対にモツとこんにゃくのみ。

 モツは栄養価抜群だし、こんにゃくは食感の変化と味の染みこみで最高の相棒に変化します。消化も助けてくれる。

 具がシンプルだから、人によっては味が濃くてしょっぱく感じるかもしれない。

 だけど、それこそ1品の料理で酒も飲んでご飯も食べてしまおうという、先人の知恵なんですよね。これ一皿で十分に満足できる味なのです。

 そんな家に育っているから、おかずは3、4品並んでいないと家族として愛情を感じないだなんて発想は、俺にはありません。

 普段の食事ではニラ炒めが大好きで、おかず1品が普通だと思っていたし、毎日のメニューで野菜もタンパク質も十分にとれているでしょ。しかも安く上がる。

 家庭料理らしい家庭料理を作っていた母親や祖父母の愛情は、1品で十分に感じて育ってきました。

(リュウジ・著『孤独の台所』から一部を抜粋・編集)

孤独の台所
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