
おかずは3、4品ぐらいないと料理として手抜きだ――そんな主張に強く反論するのが、料理研究家のリュウジさん。自身は母子家庭で、「おかずが1品ドーンと出て」くる夕飯を食べて育ってきたと言います。料理哲学のすべてを語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けします。
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俺が育ったのは千葉県千葉市の郊外といえば郊外、ほどよく田舎です。
中途半端に開発されたモノレールが通っていました。料理研究家の仕事を始めるまで、東京に住んだことはありませんでした。きっと俺はこのままこの場所で暮らすんだろうなぁと、ぼんやり考えていました。
家は母子家庭でした。
俺が小学生のころには、母親と3階建ての一軒家に一緒に暮らしていて、祖父母がすぐ隣に住んでいました。家と離れがつながっていると言えばわかりやすいかなと思います。渡り廊下でつながっている二世帯住宅という感覚です。
母親は仕事で忙しくて、夕飯はたとえば煮込みハンバーグとかのおかずが1品ドーンと出てきて、一緒にご飯をかっこんで終わり、という感じでした。
それで十分、母親からの愛情を感じたし、なによりうまかった。
母親の料理で今でも思い出すのはニラ炒めです。ひき肉を塩コショウでがーっと炒めて、ニラを入れて、火が通ったらちょっと醤油を垂らすだけという簡単なレシピだけど、これをご飯にかけるとマジで箸が止まらない。無限に飯が食えてしまうという大好きな一品です。
あと思い出の味といえば、なんといってもうちのモツ煮。祖父母がよく作っていて、週1回は食卓に出てきました。正月みたいに親族が集まる席でも定番の、実家の味なんです。
今でも好きで居酒屋でモツ煮を頼むことはあるけど、うちの実家よりうまいモツ煮を食べたことはありません。同レベルぐらいのモツ煮はあっても、やっぱりうちのがいちばんうまい。