
料理本は料理が好きな人が読むもの、といった常識を覆したリュウジさん。デビュー作となるレシピ本を出したときの心境の変化を、自身の料理哲学を語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けします。
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料理が好きで、毎日台所に立っても飽きないという人は少数派です。
好きな人は、自己流でばしっと味を決めることができる。
でも、一歩外に出てみれば、みんな料理には悩んでいるんです。
その日ぱっと思いついて、作ることができて、うまいものを求めているんです。
しかも一緒に食べる人が喜んでくれるなら、なお嬉しい。そんな体験を求めています。俺が友達から「うまい」と言われて嬉しかったように、です。
『バズレシピ』がまったく売れなかったら、うま味調味料を批判する連中が言っていることもわかる。
でも、『やみつきバズレシピ』は俺のデビュー作にもかかわらず、順調に増刷を重ねて7万部以上売れて、料理レシピ本大賞にも入賞しました。
この本がきっかけで仕事も増えたし、新しいレシピ本を作るチャンスも得られました。出版記念のイベントに「味の素」の社員が来てくれて、新しいプロジェクトが動き出すことも決まりました。
これは何を意味しているのでしょうか。
少なくとも、読者は俺のレシピを歓迎してくれて、俺が「料理研究家」と名乗ることを認めてくれたということです。
料理人は自分の店を持つプロで、料理が好きな人たちが憧れる存在です。
俺はそうではなく、料理が好きではない人のための料理研究家になろうと決意しました。
その結果、経済的な成功も収めることになった。俺の人生の決定的な転機であり、分岐点です。
もし、最初の編集者に言われたようにフォロワー数が伸びるまで待っていたら、いろんな経験をすることもできず、うまくいかずに終わっていたと思います。
大事なのは、今できることを今やるということに尽きます。待っていてはダメなのです。
「今やろう」という編集者と組んだことで、俺は自分の仕事の価値がわかりました。俺は、料理をやってみようと思った人にとっての入り口なんです。俺をきっかけにして料理が楽しいと思ってもらえるのなら、それは最高です。
でも、しょうがなく料理をするのでもいい。台所の孤独を少しでも感じなくなるならそれでいい。
そんなことを思えるようになりました。
どうして俺が『バズレシピ』に辿り着いたのか。原点は生まれ育った千葉県千葉市の郊外にあります。
(リュウジ・著『孤独の台所』から一部を抜粋)
