Ⓒ矢口亨
Ⓒ矢口亨

「主人公っぽいな」

――改めて、羽生結弦さんとはどんな被写体ですか。

「自分の人生を主人公として生きている人」だと感じています。先ほどの清潔感というのもそうで、自分が主人公だと思っていたら、主人公的な行動や発言をしますよね。もちろん全員がそうする必要はありませんが、日々の振る舞いがあるからこそ、羽生選手のまとう雰囲気や表現につながっていると思います。

 撮影現場でも彼が入ってくると空気が一変するし、衣装に着替えたときのギャップを目の当たりにするたびに、「主人公っぽいな」と感じます。そして彼自身もそれを引き受けたうえで、カメラの前でそう振る舞っていると思うんです。

――撮影を重ねるなかで、関係性に変化はありましたか。

 僕自身は今も昔も「気を使いすぎないこと」を心がけています。羽生選手のすごさはいつも感じているし、尊敬するところもたくさんあります。でも、僕自身はできるだけフラットでいたいんです。

 今年4月には屋外でも撮影させていただいたのですが、今までにない感じだと思いました。素の表情というか、肩の力がすっと抜けた感じというか。それが彼自身の変化なのか、フォトグラファーとの関係性によって生まれたものなのかは、まだわからないところではあります。

 羽生選手自身が僕の撮影をどう感じているか直接聞いたことはありませんが、最近は撮影の際に提案をくれることもあり、真摯に向き合ってくれているんだなと感じます。だからこそ僕も羽生選手に甘えず、もっと準備しなければいけないという気持ちがより強くなりました。

■矢口亨/やぐち・とおる。山形県上山市出身。報知新聞社のフォトグラファーとして2010年サッカー南アW杯、12年ロンドン五輪や21年東京五輪などを取材。プロ野球フィギュアスケートは19~20年シーズンから担当。23年2月に報知新聞社を退社し独立。フリーランスのフォトグラファーとして活躍。『ジャイアンツ小林誠司 Photo Book』、写真集『羽生結弦2019-2020』『羽生結弦2021-2022』などを手がける。Instagram:toru.yaguchi

 

(構成/AERA編集部・福井しほ)

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