
ブリュッセルに暮らすエヴァ(シャーロット・デ・ブリュイヌ)は無愛想で孤独な女性だ。SNSで友人の追悼イベントを知ったエヴァは13歳の自分(ローザ・マーチャント)の忌まわしい記憶を蘇らせる。そしてある計画を実行するが──? 俳優としてキャリアを積んだ監督の衝撃デビュー作「MELT メルト」。フィーラ・バーテンス監督に本作の見どころを聞いた。
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リゼ・スピットによる原作を読んだときは衝撃でした。大人になったエヴァと子ども時代の彼女の対比にショックを受けたんです。多くの可能性を秘めて生き生きと日々を過ごしていた少女が、自らを閉じ込めるかのような生き方をしている。なぜそうなってしまったのかを理解したいと思いました。同時に若き日のエヴァに自分自身を見いだしもしたのです。同年代の男子たちに女の子として認識されたい、可愛いと思われたい。どこかのグループに帰属したい気持ちなど、私にも覚えがあります。
初監督作として難しいテーマであることはわかっていましたが、私はいつも無謀なんです(笑)。「この物語を正確に伝えたい!」との思いで脚本に5〜6年かけました。エンディングについても迷いはありませんでした。彼女にはこの方法しかなかったと思っています。

大人のエヴァは無愛想で感情移入しにくいキャラクターだと思います。実生活でもそういう人と接することがありますよね。これまで私は「何か彼らを癒やす方法があるのではないか、何か助けることができるのではないか」と思ってしまっていた。社会的にも頑張ることや闘い続けることが称賛されます。でも過去の経験が大きすぎる相手に周囲が「頑張れ」というのはやはり無責任なのです。乗り越えられないトラウマを抱えた人が存在すること、そういう人たちをジャッジしないことなどを本作で感じてもらえればと思います。
アフリカの古いことわざに「子どもは村全員で育てる」があります。私はこの言葉がとても好きです。社会の全ての人が自分の子か人の子かに関係なく、子どもを注視すべきです。映画を見終わるころには最初は感情移入できないと思ったエヴァを、友人のように感じてもらえれば嬉しいです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年7月21日号
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