「農水省の統計上は『豊作』ですよ。でも、この周辺の農家で『昨年は米が取れた』という人は誰もいない」と話す、千葉県匝瑳(そうさ)市の米農家・伊藤秀雄さん=米倉昭仁撮影
「農水省の統計上は『豊作』ですよ。でも、この周辺の農家で『昨年は米が取れた』という人は誰もいない」と話す、千葉県匝瑳(そうさ)市の米農家・伊藤秀雄さん=米倉昭仁撮影

小泉農水相は「作況指数」廃止を発表

 こうした調査方法は「前近代的」だとして、伊藤さんは関東農政局などに改善を訴えてきた。

 そんななか、青天の霹靂ともいうべき事態が起こる。6月16日、小泉農水相は突然、「作況指数」を廃止、今年産米から公表を中止すると明らかにしたのだ。

 小泉農水相は、「作況指数」を廃止する理由ついて、「作況指数は長期的なトレンドとの比較であり、生産現場での作柄の実感と乖離(かいり)している」と述べた。今後は前年と比較するかたちで出来・不出来を示すという。

「大きな改革」ではあるが…

 収量調査については、従来の1.7ミリのふるい目の基準を実態に合わせ、多くの農家が使う1.8~1.9ミリのふるい目に変更する。人工衛星のデータの活用や、大規模農家の収穫データの入手も検討するという。小泉農水相は、今後の米の収量の把握について、「精度を向上させて、農業政策の新たな基盤を確立していきたい」と述べている。

 この決定は大きな変革を意味している。

 農水省はこれまで作況指数のギャップについて、「大規模な農業法人などや小規模な農家を問わず、さまざまな地域(平坦地から中山間地)を実測調査した結果の平均値となっているから」と説明してきたのだ。

暑さで「精米歩留まり」下落

 東京大学大学院・鈴木宣弘特任教授は、こう話す。

「全国の農家のみなさんからは、暑さの影響で『昨年の作況指数の実感は90くらい』『精米歩留まりは8割台に落ちている』という声を多く聞いています。昨年産米の流通量は、農水省が考えるよりかなり少ない可能性がある」

 精米歩留まりとは、玄米を精米して表面のぬか層を削り取ったあと、得られる白米の割合のことだ。年間700万トンの生産量に対して、仮に精米歩留まりが1割低下すれば、70万トンの米が減る。政府備蓄米が91万トンというから、いかにインパクトのある量が「歩留まり」で減っていることがわかるだろう。

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