レコードをかける菅原さん
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菅原さんが撮影してくれたわたし Photo(c)S.S.Swifty
菅原さんが撮影してくれたわたし Photo(c)S.S.Swifty

 わたしがよく読む雑誌のひとつに「季刊アナログ」というオーディオ雑誌がある。
 この雑誌のリードが「アナログオーディオ&ゆとりマガジン」とあり、アナログ・レコードを楽しむための情報を提供してくれるのだが、その中に、「今こそクラシック・カメラを楽しもう」という古いフィルム・カメラのコーナーと「ウイスキー、くつろぎの時」という、オーディオや音楽とは一見、全く別のジャンルの連載コーナーがある。

 わたしの手元に、「季刊アナログ」の「2015SUMMER vol.48」がある。創刊から48号目ということになるのだが、クラシックカメラの連載が43回、ウイスキーの連載が45回と書いてある。つまり、どちらも創刊号からまもなく連載が開始し、10年以上続いていることになる。つまり、読者の好みと合っているということなのだろう。

 なにを隠そう、わたしも同じ趣味なのだ。写真、カメラとお酒が大好き。
 わたしの場合、ウイスキーだけでなく、世界中の酒、ワイン、日本酒と、その好奇心は国内にとどまらない。そういえば最近、自分の古い蔵書の整理をしているのだが、岩波新書の坂口謹一郎著「世界の酒」という本が出てきた。

 1957年1月に初版が発行され、わたしが持っているのが75年7月第19刷発行である。よく売れた本であるのがわかる。そして、75年といえば、大学に入った頃だ。成人した最初の頃から、世界の酒に興味があったようだ。

「世界の酒」の目次を見ても、「1 キャンチの国(イタリー)」とある。今では、キャンティーだが、当時はキャンチと呼んだようだ。「15 エールとスタウト(イギリス)」、77年には、わたしはロンドンに1カ月ほどホームステイして、パブでエールビールやスタウトを飲み、世界には日本のラガービールとは違うたくさんの種類のビールがあるのだということを確認したのだ。

 そして、カメラ。わたしがまだ幼稚園生の時に、知り合いのおばさんがカメラを買ってくれた。いま思ったのだが、母が買ったら父になにか言われそうなので、おばさんに頼んで、もらったということにしたのではないだろうか。それならば、父も文句は言えまい。こういうことって、50年以上たって、気づいたりするものなのかもしれない。
 といっても、おもちゃのようなカメラで、ブロニー版というフィルムがあるのだが、それを小さくしたようなさくらパンという紙巻きのフィルムを使うカメラだった。探せば自宅のどこかにあるはずなので、機会があればそのカメラの写真を紹介する。

 その後も、59歳に至るまで、さまざまなカメラやレンズを使い、そして、集めてきた。特に、デジタルカメラの時代になり、戦前のレンズなど、デジカメに取り付けて撮影できる、いわば一度引退したようなレンズたちが、現役のレンズになって戻ってきたのである。これは、写真好き、カメラ好きにはとても楽しい話なのだが、でも、そんな話をできる友人は、そんなに多いわけではない。その手の本を読みながら、独りで楽しんできたのだ。

 さて、わたしは、ジャズを撮影する写真家の方たちとも、おつきあいさせていただいている。まずは、内山繁さんだ。このコラムの第80回で紹介させていただいた。(第80回 マイルスに最も近づいた男が創ったJazz & Cafe“Whisper”)。この『ミュージック・ストリート』の前進の『ジャズ・ストリート』で、連載もしていただいた。内山さんの原稿や写真は、アーカイブを見ていただきたい。(内山繁[ジャズギャラリー]

 そして、常盤武彦さんにも、[ジャズを巡るニューヨーク]というタイトルで、連載していただいた。それから、あるイベントで、このお二人と一緒にジャズについての鼎談をしていた中平穂積さんとも、この鼎談のあとの打ち上げで、ご一緒させていただいた。中平さんは、ご存じ新宿の老舗ジャズ喫茶「DUG」のオーナーでもあり、写真家でもある。この方たちを見ていると、写真もジャズも大好きなのがわかる。

 そして、ジャズ喫茶「ベイシー」の菅原正二さんも、写真を撮影する。
 ご本人は、プロではないとおっしゃっていたが、オーディオ雑誌の「ステレオサウンド」に連載している「聴く鏡」というコーナーには、毎回、写真も掲載している。連載89回の「カンサス・シティ・ブルース」には、船の後ろから波立つ海とその上にある雲の写真、文章の中で沖縄のジャズ喫茶の話題が出てくるのだが、それと関係するのか、南の島の樹木の写真の2枚が掲載されている。どちらも白黒写真だ。そういえば、自分で写真の現像もやっていたと読んだ記憶がある。

 それから、この文章の中にも、沖縄に行った際に出合ったジャズ喫茶のところで、「ちなみに、ぼくの左肩にはコンタックスRTS用のディスタゴン25mmF2.8レンズを装着した絶好のカメラがぶら下がっていたのだが……」とある。カメラは、ソニーの@7ではないかと、わたしは思うのだが。菅原さんの、そのレンズに対する愛着が感じられる文章だ。

 それから、写真の撮影者の名前が、Photo(c)S.S.Swiftyとなっているが、これは菅原さんのこと。カウント・ベイシー本人が、菅原さんにつけたあだなだとか。すぐに実行してしまうところからつけられたのだという。

 菅原さんの写真で、みなさんにも、見てもらいたいのが、「聴く鏡Ⅱ」の中に入っている、カウント・ベイシーの写真だ。その表情のとらえ方がうまいのはもちろんだが、そこに出ている色合いは、菅原さんがレンズにこだわっていることがよくわかる。菅原さんは音だけでなく、レンズやカメラにもこだわっているのだ。そしてそれは、菅原さんの生き方そのものなのだと思う。この文章を書いている今も、一ノ関のジャズ喫茶「ベイシー」に行って、菅原さんといろいろなお話をしたくなっている、わたしがいる。

 あ、最後に、わたしが「最近、目が悪くなって、オートフォーカスのレンズを使うことが多くなりました」というと、菅原さんが「ピントぐらいは、自分で合わせたらいいんじゃないの」と言われた。肝に、命じます。 [次回9/14(水)更新予定]