本書は若きライターの熱意により実現した、小泉純一郎元首相の取材録だ。
 著者はとりわけ、東日本大震災以降、原発ゼロを目指す小泉氏の取り組みに斬り込む。活動の原動力は「ひでえことを俺も信じてきたなという自分への悔しさ」「原発は環境汚染産業」……ストレートな言葉からは「ポピュリスト」「パフォーマー」などといった世評とは異なる表情が見える。
 最優先事項は原発であるがゆえ、現政権の取り組みには極力口出ししないというが、安保法案の強行採決など現政権に繰り出される批判も本書の読みどころだ。
 後半では、講演取材を軸に独自の「小泉論」が展開される。安倍首相を重要ポストに抜擢するなど、小泉氏には「安倍政治の製造責任」があると明言。一方、複雑な問題をシンプルに伝える力、首相経験者ながら過去に未練を感じないキャラクターなどから小泉氏を「現在進行形のスター」と高く評価もする。政治的な色眼鏡を外し、その人物像を再考させられる一冊。

週刊朝日 2016年4月1日号