『Duke Ellington's America』Harvey G. Cohen
『Duke Ellington's America』Harvey G. Cohen
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●第9章 Rebornより抜粋

 エリントンが作曲に没頭し、創作本位の日常生活を送っていたことは、彼のインタヴューからも明らかである。彼が1962年に語っている。「私に限らず誰でも、眠っていたり、食事をしていたり、歩いていたり、シャワーを浴びている時に、曲を書くものだ。車に乗って移動している時に、あるメロディーがふと浮かぶ場合もある。だが、記憶を当てにしてはいけない。書き留めておくんだ。さもなければ、消えてしまう」。

 1960年代にしばしばツアーに同行したジャズ評論家スタンリー・ダンスが、エリントンの習性を伝えている。「彼がホテルに滞在する時、スイートルームには必ず、ピアノが運び込まれていた。キャムデンではそれができなかった。だから彼は、人けのないホテルの舞踏場で照明を全部つけ、一人で明け方まで仕事をしていた。ボストンでは、ピアノが都合よく、テレビの向かい側に、続き部屋のドアのすぐ近くに置かれていた。だから彼は、シャワーの途中で閃くと、そのまま出てきて、ワン・コードかワン・フレーズを弾き、シャワー室に引き返せばよかった」。

 オーケストラのメンバーやファンもまた、エリントンがバンドスタンドで、新作のアイデアを原稿用紙に走り書きし、曲作りに取り組みながら、同時にまったく異なる曲を演奏するバンドのサウンドに耳を傾け、彼自身のピアノ・パートをライヴ・パフォーマンスに添えていたことを記憶している。

 エリントンの作曲に対する没頭は、情熱家らしい独自の人生哲学に基づいていた。彼が、1961年にニューヨーク・ポスト紙に答えている。「私は(書くという)課題を抱えていたいんだ。さもなければ、万事が決まりきった退屈きわまりないものになってしまう。そして、私は怠惰になるだろう」。

 彼は長年、インタヴューにおいて判で押したように常套句を並べ立てたが、それは、おそらく頭の中でメロディーを紡ぎ、しばしば上の空で答えていたことを示唆する。だが、インタヴュアーが、作曲の話題を切り出すと、彼は、真情を吐露した。作曲は、エリントンの音楽人生における命題だった。したがって、この話題に関する発言の検証は、エリントンを考察する上で大きな意味を持つ。以下は、1956年から67年にいたる彼の発言を年代順に列挙したものである。

「私はへとへとになって仕事をしてはいないんだよ。奴隷のようにあくせく働いていない。音楽は実際、私の初恋だ。もちろん、追求する時には、真剣に追求する。全力を尽くす。時と場合によっては、書いて、書いて、書きまくる。1週間まったく寝ずにだよ。寝たとしても、真夜中に起き出したり、2、3時間眠った後、アイデアが浮かんで仕事に戻り、何か仕上げる。だが、それが一段落すると、いつ仕事に戻るのか、私にもわからない。なぜなら、何事も強いられたくはないからだ。私は、書きたい時に書く。バスや車や列車、こういった乗り物での移動は、快適だ。恰好の気分転換になる」

「今は、私にとって書く時期なんだ。この2年間、私は次から次へと書いてきた。生まれてこの方、これほど書いた覚えはない。それでも、アイデアが、閃き続けている。それを取っておいても、無駄というものだ」

「(『優れた作品をそれほど数多く書き続けて、枯渇しないのですか?』という質問に答える)私は何も奪い取られていない。奪われるというよりも、与えられている。私自身の作品を聴けば、心身ともに報われる。決して金では買えない恩恵だ。そしてそれが、刺激になる」

「音楽は、私にとって道楽だ。だから、オーケストラを持つ必要があるんだ。それは、一種の虚栄だ。私の場合、オーケストラの演奏を聴かなければ、始まらない……私の音楽は、“円熟味がある” と言われる。それはたぶん、食べ物に胡椒やカレー粉を加えるようなものだ。つまり、音楽的なアイデアやスパイスを加えるんだ。そうして、味のよい音楽を提供する。悩みどころを言えば、リズムの選択だ」

「私に限らず誰でも追求し続けているもの、これがメロディーだ。常にこれを探し求め、ほんの少し閃くと、食らいつき、吟味する。そして、さらにもう少し、今度は別のメロディーを模索する。新たに何か、見つかれば、ラッキーだ。このメロディーという幹は、さまざまな実を結ぶ……作曲は、多少の金儲けになるかもしれない。だが、金については、意に介しない。私は、それを聴きたいだけだ」

「有望なミュージシャンは、常に新しいものに挑戦する。私たちは夢を持ちたいんだ。頂上を目指したい。私の人生は音楽一色だ。ひたすら音楽に打ち込んできた。他に、これといった興味もない。私は音楽中毒だと言えよう。貪欲な耳を持ち、シャープとフラットを使い果たす。そして1年365日、バンドを統率する立場にある」

「(エリントンがインタヴューに遅れたことを詫びる)つまり、家に帰りベッドに直行するつもりでいたが、ピアノの前にさしかかると、つい弄ぶ。そうして、ピアノに向かい、2、3コード試してみる。気がつけば、午前7時になっているというわけだ」

『Duke Ellington's America』By Harvey G. Cohen
訳:中山啓子
[次回5/11(月)更新予定]

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