生放送で自分が訳した曲歌ってみた(イラスト:サヲリブラウン)
生放送で自分が訳した曲歌ってみた(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 ミュージカル俳優の井上芳雄さんがホストを務めるラジオ番組「井上芳雄 by MYSELF」にゲストでお邪魔してきました。

 この番組は、井上さんとゲストが歌を歌うコーナーが名物です。当然、私も歌を歌うことに。それは半分覚悟していましたが……。

 ゲスト出演が実現したのは、井上さん主演のミュージカル「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」で歌われる「Nature Boy」を私が訳詞したから。そして、以前から私が「出たい!」とラブコールを送っていたから。

 ありがたいことに、井上さんは私のラジオ番組「生活は踊る」のリスナーでもあり、ゲストや、代打パーソナリティーで、これまでにもご縁はありました。しかし、今回はプロ中のプロが集まるミュージカルの世界に、私がお邪魔させていただいたあとの話。それ以前なら、言い方は悪いけれど「素人がやってきました」という風情で歌うことができたでしょう。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 だが、今回は違う。しかも、歌うのは「Nature Boy」。自分が訳した曲を、主役と一緒に歌うだなんて。「ムーラン・ルージュ!」は現在絶賛上演中ですから、笑ってすまされる話ではない。しかも当日は生放送。迷惑をかけずに、欲を言えば楽しみたい!

 家とカラオケボックスで練習を重ね、やれることはやって迎えた本番当日。ピアニスト大貫祐一郎さんの寄り添うような伴奏と井上さんの温かい歌声に励まされ、練習では一度もひっくり返ったことがないところで声が裏返ったものの、とても楽しい時間が過ごせました。10年前なら絶対に起こりえなかった出来事。

 まず、訳詞の依頼をいただいた時点で、「作詞家ではありますが、訳詞は未経験なので」と断っていたでしょうし、ラジオに出してとも言えなかった。生放送で歌うとなったら、上手く歌うことばかりを考えて、楽しむなんて二の次になっていたはず。

 今年は執筆活動10年目で、「普段はやらないことにもチャレンジ」がテーマです。それに則ったおかげで、思いもよらない経験ができました。

 やっぱり、少しでも興味があることには「自分なんかが」とは思わず、「私はこうだから」と決めつけず、全力で楽しめるようトライしたほうが新しい扉が開くのだな。

 チケットも残り僅か。ぜひ見にいってください!

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年8月7日号

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