【K STORM】チャン・ギハと顔たち解散インタビュー 韓国のオルタナティブを担ってきたバンドが解散前に明かした想いを訊く(TEXT:日韓音楽コミュニケーター筧真帆)
【K STORM】チャン・ギハと顔たち解散インタビュー 韓国のオルタナティブを担ってきたバンドが解散前に明かした想いを訊く(TEXT:日韓音楽コミュニケーター筧真帆)
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 K-POPのメインストリームとは少し離れた地点から韓国音楽を更新する才能を、連載形式で紹介している【K STORM】。Jay Park(ジェイ・パーク)を紹介した前回に続き、今回は特別編として、先日解散した韓国バンド「チャン・ギハと顔たち」のスペシャル・インタビューをお届けする。

 先日、日本のグループ、嵐が活動休止を発表したことが、韓国でも大々的に報道された。それは彼らの人気もあるが、韓国では、休止はおろか解散を発表するチームさえ、かなり少ないことも関係している。そんな中、2018年に結成10周年を迎え、絶好調と思われたチャン・ギハと顔たちも10月に解散宣言をし、活動に幕を下ろした。チャン・ギハと顔たちと言えば、ここ日本でも在日ファンクやZAZEN BOYSらと対バン・ライブをかつて開催。また日本人ギタリストを擁することでも知られる、韓国を代表するバンドだった。そして、彼らのような骨太なバンドの存在は、【K STORM】で紹介してきたオルタナティブな音楽家たちの、言わば先駆的な存在でもある。

 今回の【K STORM】は、いつもとは少し角度を変えて、好調の中でバンドが解散宣言をした経緯と、10年間のバンド活動を経て、現在の韓国バンド市場について、どのように見ているのか、その真意を、最後に来日した際の解散前インタビューの模様からお伝えする。

◎チャン・ギハと顔たち、解散インタビュー
自国のオルタナティブを担ってきた韓国を代表するバンドが解散前に明かした想いを訊く

――新作のアルバムを楽しみにしていたところ、10月に「年内でバンドを“仕上げる”」という宣言…実質の解散発表をしたことが衝撃でした。

チャン・ギハ(リーダー・Vo/以下ギハ):今年(2018年)の中ごろ、5thアルバムの『mono』がほぼ仕上がって全体が見えてきた頃に“仕上げ”を決心した。10年間の結晶体のような仕上がりとなったので、音楽的ピークの時に区切りを付けようと。6人ともやり切った。それ以前に意識していたことではなく、本当に曲の仕上がりでそう感じたんだ。

ミンギ(G):いつかは休止や解散がやって来る。10年だって長かった方だと思うよ。人のエネルギーには限度があって、放電しきったら充電しなきゃいけない。現状は“仕上げる”ことがベストの選択だと思うんだ。

――チャン・ギハと顔たちのデビューは、韓国音楽界に衝撃を与えました。時にシニカルに、時に詩的に、ごく小市民の生活を歌にのせた大韓ロックが人々の心を掴み、“インディーズ界のオバマ”(※09年1月に米国オバマ大統領が誕生)とも言われ、知名度は全国区になりました。その後も独創的な作品で注目を浴び続けてきた10年間でしたが、解散を前にどんな心境でしょうか。

ギハ:僕らにはほぼ無名の時代が無く、嫌なことも無くて幸せな10年間だった。デビューのタイミングや運が本当に良くて、デビュー曲の「安物のコーヒー」からすぐに話題になり、その後10年間も幸せだった。

ジョンミン(Ky):音楽がカッコよくて、メンバー同士が共鳴している…とか、そんな声が届いてくることが本当に幸せだった。

イルジュン(D):僕はバンドのファンだった流れでメンバーに加わることになったから、それだけでも夢がかなった気分だよ。

ジュンヨプ(B):いまも解散というより、バンドを卒業する感覚だね。

ギハ:卒業と同時に学校も無くなるけどね(笑)

――今K-POPではTWICEをはじめ日本人のメンバーも珍しく無くなってきましたが、(長谷川)陽平さんは韓国音楽界で活躍する日本人として、パイオニア的存在ですよね。幾つかのバンドを経て、最も長く活躍したチャン・ギハと顔たちは、どんな場所でしたか。

陽平(G):このバンドのメンバーになって、僕はプロフェッショナルのミュージシャンになったと感じる。韓国に住んで23~4年目になるけど、上手く行かなかった時代のほうがずっと長かったから。僕自身のマインドは変わらないのに、人々が僕をプロのミュージシャンとして見る視線が不思議だった。10代や20代の頃は後悔することもあったが、この10年間はひとつの後悔も無かった。メンバーになっていなかったら、その間に日本へ帰っていたかもしれない。

――この10年間、韓国の音楽シーンで変わったと思うことは?

ギハ:最も大きいのは、より産業化と体系化が進んだこと。シンガーソングライターやバンドたちの活躍が、以前にも増して難しくなったと感じる。市場がシステム的に変化しているから、この状況を良し悪しのひとことでは言いにくいけどね。

――最近のバンドシーンをどう見ていますか?

ギハ:ビジネス的に幾つか成功しているバンドが出てきているのと、音楽市場でバンドが増えているかどうかは別問題。学生時代から楽器を触っていて自発的にバンドを組んだという若者は、特に増えてはいないよね。今の時代(自発的に音楽を始めるなら)皆、ラップするでしょ(笑)。ラップが悪いということでなく、始めるためのハードルが少し低いから。自宅でひとり音を作り始められるからね。対してバンドの場合は、楽器を買わないといけないし、練習もひたすらやらないと、まともに弾けない。

ジョンミン:音楽プログラムのシステムが良くできていて、もはやドラムも必要ない。コンピューターだけあれば音が出るからね。

ギハ:だから、音楽やりたい人は考えなきゃいけない。機械より上手くできることは何か?機械が優れていることは、プレイヤーたちを発展させるチャンスだから、その活かし方を考えないとね。

陽平:僕たちが過ごした10年という期間は韓国では長いけど、バンドとしては決して長くない。いい音楽だなと思ったバンドがいつの間にか消えていることも多いから、もっと長く続けて欲しいと感じる。

――韓国バンドたちの、世代間の繋がりが気になります。例えばダンス・アーティストは、誰かに憧れて事務所に入ったという話はよく聞くきますが、韓国の若手バンドマンが口にする憧れは海外バンドばかりで、国内の先輩バンドを答えるケースはほとんどないですよね。また、先輩バンドが後輩を育てようという文化はあるのでしょうか?

ジョンミン:無いわけじゃないと思う。Cryingnut(※96年デビューの韓国初代パンクバンド)は、(日本のNHKにあたる)KBSの音楽番組で若手を紹介して育てているよね。

ギハ:僕自身はキュレイターとしてイベント企画に参加して、若手をフックアップしたり、対バンもしている。それと若手側の話だと、まずは大きな会場でしっかりと稼いでいるアーティストに憧れるのが大多数だろうね。ダンスチームなら、そんなアーティストは沢山いるけれど、バンドの場合、成功はしていても規模が微妙だから。

ミンギ:だから、国内バンドをロール・モデルにするには難しいんだと思う。

長谷川:日本は楽器を扱う人口が多いし、ジャンルも広いし、先輩後輩文化が違うかもしれないね。逆に韓国の若いバンドマンで国内バンドの先輩に憧れると言う場合、そのバンドの音楽はたいてい面白いよ(笑)。

――インディーズの出身で、メインストリームでも知名度を持って活躍するバンドというと、00年代の代表がチャン・ギハと顔たちで、2000年代はヒョゴだと思います。彼らは事務所の後輩にもあたりますが、どう見ていますか?

ギハ:スタートした時期が違うだけで、先輩後輩というより同僚だね。独自のカラーを持ってよくやっている。バンドで大成するのが以前よりも厳しい時代に、彼らの音楽や存在感は重要なポジションを築いている。海外でも大きく成功していることも本当にすばらしいから、長く続けて欲しいと思っているよ。

文:日韓音楽コミュニケーター 筧 真帆

◎チャン・ギハと顔たち プロフィール
 2008年、ボーカルのチャン・ギハを中心に結成された6人組バンド。チャン・ギハ(Vo)、70~80年代の韓国ロックやフォークのエッセンスを加味したユニークな音楽で、身近な出来事を独自の目線で歌い続け、様々な実験的チャレンジも行ってきた。2008年に発表した「安物のコーヒー」が注目を浴び、1stアルバム『何事もなく暮らす』は、韓国インディーズでは異例の4万枚以上の売り上げを記録、数々の音楽賞も受賞した。
 日本では【サマーソニック2012】への出演をはじめ、ZAZEN BOYS、トクマルシューゴ、ヒカシュー、怒髪天、キセル、在日ファンクなど、多くの日本のバンドと対バンを敢行。2018年10月、5thアルバム『mono』のリリースを前に、年内解散を表明。12月半ばに東京、年末にソウルにて解散ライブを行った。