変態SM作家「団鬼六」の生涯を綴った長編ノンフィクション。
 直木三十五の弟子(愛人)だった母を持ち、相場師の父からは「人生は甘くないではなく、甘いものと考えろ」と教育されたボンボンは、長じてオダサクの再来と呼ばれる純文学作家としてデビューするも、酒場経営や女や相場に手を出し、やがて大借金から逃亡生活へと入る。いったんは中学教師に納まった彼だったが、いつしか生徒に「自習!」を告げるや、教壇の机で、日本SM小説の金字塔『花と蛇』を書き殴る「鬼六」となっていた。その後は「エロという潤沢な油田を掘り当てたような状態」に突入し、「エロ事師」として小説・脚本・映画・雑誌・写真集を叩き売り、莫大な金を手にすると、「快楽なくして何が人生か」とばかり、日々大宴会につぐ大宴会を催し、遊び狂うのだった。むろん、愛人たちを縛りに縛った。
 無名時代のたこ八郎を付き人にし、ポルノ女優・谷ナオミをプロデュースし、真剣師・小池重明を世に認めさせたSM作家鬼六の本性は、実は「人を赦(ゆる)すサディスト」だったことを明かした評伝である。

週刊朝日 2013年2月8日号