吉井:たとえば、「JAM」という曲が、発売当時評価された一番の理由は、一晩の一瞬を5分の中に入れている人がいる、という部分だと思います。だけど、年を重ねると、一瞬のことが歌えなくなってくる。長い時代、長い時間のことを歌い出す。死とか、もう憧れている場合じゃないからね。確実に迫ってきているから、酔えないんですよ。それはそれでいいんですよね。
エマ:若い頃と同じことはできないし、やろうとも思ってはいないんです。今できることをやりたい。
アニー:今やっていることは、昔の俺には絶対できないと思うんですよ。昔は全員がステージで発散しまくるよさがあったけど、今のほうがバンド感がある。ローリング・ストーンズみたいに、演奏中にバンド全体がロールして転がっていく感じ。ずっと続けていけるような歩み方ができていると思います。
吉井:バンド以外の音をふんだんに足していくという音楽の作り方もあるけど、このバンドはそれはもういいかな。年をとるほど、どんどんタイトにしていきたいよね。ぎゅっと狭い部屋でやって、でもそれが聴く人にはダイナミックに聞こえるんじゃないかな。60代、70代になっても、それこそ、ロージング・ストーンズだよね(笑)。
エマ:解散前より再集結した今の方が、楽器を始めた頃に感じていた「ギター弾くのが楽しい」という感覚が大きいんです。いろいろ経験してきてここに戻ってきたし、やっぱりこのメンバーでやっているのが楽しい。
吉井:アルバムの配信向けボーナストラックで、インディーズ時代の曲(「毛皮のコートのブルース」)を再録音したんですけど、やってみたら一番昔の曲が一番新しい!との声が(笑)。
ヒーセ:アルバム、試聴会、ツアー全部がつながって今がある気がしています。ドームでは今回のツアーでやっていない曲もやってみたい。昔ライブハウスでやっていた曲をドームに持っていくのは、想像してもわくわくするし、聴きに来てくれた人にも響くと思っています。
年齢を重ねてさらに新しくなる。ロックにおける「ヴィンテージ」という感覚を、彼らは塗り替えようとしている。結成30周年を迎え、新人バンドのように音楽を貪欲に楽しむ。イエローモンキーは格好いい。(ライター・松永良平)
※AERA 2019年8月26日号