機構を所管する経済産業省も吉本とは関わりが深い。「吉本関係分をまだすべて精査しきれていない」(同省)としながらも、16年から17年にかけて、吉本の海外展開などに対して1件あたり125万6千~430万円の支援事業を3件実施していた。

 法務省でも16年から「社会を明るくする運動」の関連で、17年からは再犯防止に関わる啓発活動で、いずれも吉本芸人を使っている。「分かりやすく発信し、関心を持っていただくために協力をいただいている」(広報室)という。

 また、内閣府は普天間飛行場など在日米軍施設・区域の跡地の利用を検討する有識者懇談会を今年6月に設置し、委員の一人に大崎洋会長を選んだ。普天間飛行場をめぐっては、安倍政権が進めようとする名護市辺野古への移設に反対する運動が今も地元で続いている中での就任だった。

 全国紙社会部記者が言う。

「懇談会では当然、辺野古移設という政府のシナリオを前提とした上での跡地利用の検討になります。沖縄国際映画祭をはじめとして、吉本興業が沖縄振興のために貢献しているという評価があって大崎氏が委員に入ったわけですが、地元では当然、反発があります」

 こうした中央省庁や官民ファンドと吉本との関わりは、いずれも安倍政権下での出来事だ。ほかにも、16年には東日本大震災後の復興支援を目的に福島県と連携協定を結んだほか、18年からは吉本興業を代表とする企業連合が大阪府立万博記念公園の指定管理者となるなど、地方行政にも食い込む様子が見て取れる。

 毎日放送の元プロデューサーで、同志社女子大学の影山貴彦教授(メディアエンターテインメント論)は、「吉本はどんな考えでこんなことをやっているのだろうか。権力と距離を置くという矜持はお笑いにも求められるべきだ」と憤る。

 そのうえで、吉本が権力に近づいていった理由をこう指摘する。「会社が大きくなり、お笑いの世界だけでなく社会のど真ん中にくさびを打ち込めるという満足感に浸ってしまったからではないか」

 また、その「満足感」には、社会の中での「お笑い」の位置づけが関連しているという。

「政治や経済と違い、お笑いは『しょせん』という言葉を付けて語られることがあります。だからこそ、行政などに認められると喜んでしまうわけです」

 事業をどう拡大するか、どんな仕事を選ぶかは企業の判断だ。ただ、影山教授は吉本興業には「お笑いという原点に立ち返り、今回の騒動を再出発へのきっかけにしてほしい」と望んでいる。(編集部・小田健司)

AERA 2019年8月5日号

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