映画で描かれたサッチャー政権の時代から、ブレグジットに揺れる現在まで、イギリス社会は本質的にはあまり変わっていないという。
「当時も今も大人たちが若者世代を苦しめる決断をしている点は変わらない。SNSは今の若者たちに声を与えました。80年代の若者にはSNSがなかったからサブカルチャーが生まれたんだと思う」
「イングランド・イズ・マイン」というタイトルは、ファーストアルバム「ザ・スミス」(84年)に収録された「スティル・イル」という、アンチ・サッチャリズム的な曲の歌詞の一節だ。
「モリッシーは自らの生存権を主張するときに、『イングランドは僕の国』と言った。大人が子どもに強いてきた常識の中で生きるのではなく、もっと求めよ、それがあなたたちの権利だと若者に言っているんです」
日本を舞台に写真家・深瀬昌久を追った作品も構想しているという。
「ということで、日本語を頑張らないといけないんだよね(笑)」
◎「イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語」
「ダンケルク」のジャック・ロウデン主演。全国公開中
■もう1本おすすめDVD「コントロール デラックス版」
マーク・ギル監督はミュージシャンとしてのキャリアが長く、1990年代後半にはジョイ・ディヴィジョンのベーシスト、ピーター・フックのバンド「モナコ」にも在籍していたことがあるという。
ザ・スミスと同じくマンチェスターで結成されたジョイ・ディヴィジョンは80年、ボーカリストのイアン・カーティスの突然の自死によって解散を余儀なくされる。バンドのアメリカツアーの出発前日のことだった。バンドはその後ニュー・オーダーと名前を変えて活動する。短い活動期間に残された2枚のアルバムは、イアンが書く文学的な歌詞とストイックなサウンドで後のバンドに大きな影響を与えた。本作は23歳で自ら命を絶ったイアンの半生を端正なモノクロ映像で描いている。
若くして結婚し子どもも持つが、バンドが成功し多忙になるにつれて持病の発作に苦しみ、妻と恋人との板挟みにも苦しむ。そんな苦悩の中で紡がれた珠玉の音楽は、本作の中でも聴くことができる。
監督は多くのミュージシャンを撮影してきた写真家のアントン・コービン。イアン役のサム・ライリーが、繊細さと激しさが共存するキャラクターを見事に演じている。
◎「コントロール デラックス版」
発売元:スタイルジャム
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格3800円+税/DVD発売中
(編集部・小柳暁子)
※AERA 2019年6月17日号