『ソニー・クラーク・トリオ』+6(Time)
『ソニー・クラーク・トリオ』+6(Time)
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『クール・ストラッティン』
『クール・ストラッティン』
『ソニー・クラーク・トリオ』
『ソニー・クラーク・トリオ』

 いわゆる「日本人好み」のジャズマンの一人にソニー・クラークがいる。どうやらこのピアニストの魅力を発見したのは私たちの世代のようだ。簡単に言ってしまえば哀愁のマイナー・メロディが受けたということだが、それだけでもない。だいたいアメリカ人にとってジャズはホーン楽器が入っているのが当たり前で、ピアノ・トリオなどという編成を好むのは日本人だけらしい。

 つまり彼らはハッキリとしていてダイナミックなホーンの魅力はすぐにわかっても、ピアノの微妙な味わいに対してはけっこう冷淡なように思える。おまけにソニー・クラークはオスカー・ピーターソンのような派手なところは無く、どちらかという地味なタイプだ。

 まあ、日本でもソニー・クラークといえば2管の『クール・ストラッティン』(Blue Note)が人気盤なのだから、一概には言えないのかもしれないが。それでも、管楽器の脇で渋いソロを聴かせるクラーク・ファンの多いことを考えると、やはり彼の理解者は日本に多いのは事実だろう。

 ご存知のようにソニー・クラークはパウエル派ピアニストで、そのスタイルの大枠はバド・パウエル以来の右手のラインを重視した典型的ハードバップ・ピアニストである。多くのパウエル派の中で彼の特徴を挙げるとすれば、なんと言ってもタッチの重さ、渋く重厚な音色だ。ノリは良いのだけど過度に滑らず、ホンの少し引っかかるようなところがこうした微妙なニュアンスを生み出すのだろう。そうした渋い味わいは侘び寂びの文化に通じるところがあるのかもしれない。

 クラークのもう一つの魅力は作曲の才だ。それも、どちらかというと黄昏気味なマイナー旋律において優れている。面白いことに、そうしたところに惹かれるミュージシャンにユダヤ系のジョン・ゾーンがいる。もしかするとこうした哀感はユダヤの音楽クレズマーに通じるのかもしれない。

 このアルバムは全曲がソニー・クラークのオリジナルで、作曲家としての魅力を含めたクラークの全体像を知るに最適な演奏だ。かつては幻の名盤と言われ、入手がたいへん困難だった。同じタイトルでスタンダードを演奏しているブルーノート盤と聴き比べてみるのも面白いだろう。

【収録曲一覧】
1. マイナー・ミーティング (テイク 8)
2. ニカ (テイク 5)
3. ソニーズ・クリップ
4. ブルース・マンボ
5. ブルース・ブルー (テイク 3)
6. ジャンカ (テイク 3)
7. マイ・コンセプション
8. ソニア (テイク 1)
9. マイナー・ミーティング (テイク 10) (ボーナストラック:世界初登場テイク)
10. ニカ (テイク 2) (ボーナストラック)
11. ニカ (テイク 4) (ボーナストラック:世界初登場テイク)
12. ブルース・ブルー (テイク 1) (ボーナストラック)
13. ジャンカ (テイク 1) (ボーナストラック)
14. ソニア (テイク 3) (ボーナストラック:世界初登場テイク)

ソニー・クラーク (p) (allmusic.comへリンクします)

ソニー・クラーク (p) ジョージ・デュヴィヴィエ (b) マックス・ローチ (ds)
1959年1月6日NYC録音.

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