イン・モルド1985
イン・モルド1985
この記事の写真をすべて見る

祝!強烈なサウンドで完全復刻の85年ノルウェー・ライヴ
In Molde 1985 (Cool Jazz)

 不完全な状態で出ていたものが音質・内容ともにヴァージョンアップされることは無条件にうれしいが、それによって拙著『マイルスを聴け』の文章まで変更を余儀なくされることは、正直いってあまりうれしくありません。

 たとえばこの85年のライヴ。これまではクウェストなるレーベルから『マイルス・イン・ノルウェー1985』として、わずか6曲のみの収録、おまけに「7月25日録音」と誤記されるなど、それはそれは中途半端な状態で出ていた。このクール・ジャズ盤2枚組は、その中途半端盤をコンプリートな状態までヴァージョンアップさせたものだが、日付が「24日」に改められたのをはじめ、クレジットも大幅に更新された。

 そうなのです、これまでの中途半端盤ではサックスがビル・エヴァンスとクレジットされ、次のようなギャグをかますことができたのです。「クレジットにビル・エヴァンスとあるが、あなた、今夜のおかずはハンバーグ、いやボブ・バーグですよ」。ああそれなのにヴァージョンアップ盤ではこのような"おいしいミス"が修正され、その結果、せっかく考え抜いた(?)フレーズが使用できなくなってしまったのでした。

 はてさて気分も新たにこのライヴ、『聴けV7』以後、意外やあまり出ていない85年物の決定打。ノルウェーはモルドでのライヴ2枚組。しかも音質は強力なステレオにしてバランスもほぼ完璧。オープニングの《ワン・フォン・コール》からマイルスが吹き倒し、そこに重なるラップは、マイルスの軽やかなトランペット・ソロがつづいたあとに登場するスティングからマイルスに受け継がれる後半のパートまで、じつにうまくキマッている。スティーヴ・ソーントンのパーカッションの細かい動きも鮮明。

 ハイライトは後半の《ミス・モリシン》《コードM.D.》《カティア》3連発か。ちなみにCDにはクレジットされていないが、《カティア》の前に《パシフィック・エクスプレス》の短いトランペット・ソロが入る。これがまた哀愁たっぷりで、いい。

 なお『聴けV7』におけるクウェスト盤では、音質とバランスの不安定さからダメを出し、たたみかけるように「この時代のポップ・マイルスは、すべての音がばっちり鳴っていないことには成立しがたい音楽性を有するものとなっている。つまりジャズの要素だけで聴き取るには無理があり云々」と書いたが、このヴァージョンアップ盤では難点がきれいにクリアされ、ほぼ満点の状態でポップ・マイルスを楽しむことができる。音質とバランスしだいで印象がガラリと変わる80年代マイルスの評価は、いやはや、じつにもってむずかしい。

【収録曲一覧】

1 One Phone Call/Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Maze
4 Human Nature
5 Something's On Your Mind
6 Time After Time
7 Ms. Morrisine
8 Code M.D.
9 Pacific Express-Katia
10 You're Under Arrest
11 Jean Pierre-You're Under Arrest-Then There Were None (2 cd)

Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per) Marilyn Mazur (per)
1985/7/24 (Norway)