ペルージア1987
ペルージア1987
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スティーヴ・ルカサーの思い出話に耳を傾けてみよう
Perujia 1987 (Cool Jazz)

 80年代マイルスのファンは多いが(とくに若年層)、評論・研究・検証といった重いテーマには向かないせいか、マジメに追求した書籍や資料がほとんどなく、そこでワタシの場合、ビル・コール著『ラスト・マイルス』ならびに関連サイトにお世話になることが多いが、今回は12曲目に収録されている《ドント・ストップ・ミー・ナウ》という曲について、作者スティーヴ・ルカサーの思い出話を上掲資料を参考にまとめておきたいと思う。

 この曲はルカサーとデヴィッド・ペイチによってTOTOの新作『ファーレンハイト』のために書かれた。当初はマイルスとの共演は念頭になく、ジェフ・ベックの『ブロウ・バイ・ブロウ』のようなサウンドをイメージしたという。最初はペイチが導入部としてのメロディーを書き、それを発展させていった。やがてマイルスをゲストに呼んで演奏してもらうことを思いつき、「ダメもと」で交渉した結果、「やったる」との回答を得た。ルカサーは「どうしてマイルスがOKしたのかわからない」といっているが、この時代のマイルスは「イエスしかいわない優しい帝王」にイメージチェンジ、よほどのものでない限り「いやや」とはいわない体質になっていた。ルカサーは昔のイメージのままマイルスを捉えていたのだろう。「たぶんオレたちとヴァイブレーションが合ったのだろう」とも語っているが、しつこいようですが当時のマイルスはほぼ誰ともヴァイブレーションが合わせられるように体質改善していたのであります。

 やがてマイルスと会い、数日をいっしょに過ごし、そうしてコミュニケーションを図り、いよいよレコーディングに突入したという。その際、ルカサーは《ドント・ストップ・ミー・ナウ》を『スケッチ・オブ・スペイン』のようなフィーリングをもった曲と説明、実際に演奏して聴かせた。ルカサーとペイチが演奏したのは2台のピアノ。ルカサーとペイチが弾き終わるとマイルスは「Okay, I'll play like that. You like that old shit right?」といったとか。つまり「ようするにお前らは俺に古臭いシ~ットでマザファッキンでソーホワなヤツを吹かせたいんだな?」といったわけでして(もんのすごい意訳だなあ)、ともあれそのような理由からハーモン・ミュートで吹いたそうです。しかも一発で終了の早業。これが80年代マイルスを代表する名バラード《ドント・ストップ・ミー・ナウ》の誕生裏話というわけですが、この音質最高のオーディエンス録音によるペルージア・ライヴでは《トーマス》に次いで登場、それはそれはミストーンも含め胸を打つ約4分でございます。

【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 The Senate / Me And You
5 Human Nature
6 Wrinkle
7 Tutu
8 Movie Star
9 Splatch
10 Time After Time
11 Tomaas
12 Don`t Stop Me Now
13 Carnival Time
14 Full Nelson
15 Burn
16 Portia
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Darryl Jones (elb) Ricky Wellman (ds) Mino Cinelu (per)

1987/7/12 (Italy)