V.S.O.P.クインテット/ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説(日本盤。MC&曲間がコンプリート。)
V.S.O.P.クインテット/ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説(日本盤。MC&曲間がコンプリート。)
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 ジャズ・オーディオに対する一般的なイメージは、やはりなんといっても大型スピーカーを用いての大迫力再生ということになろうか。繊細な音のするオーディオ機器は、どちらかといえばクラシック向きであると、そんなふうに捉えるむきも多いだろう。

 しかしながら、本格的なモニタースピーカーを買ったりして、女性ボーカルの唾液の「にちゃっ」とかいう音まで聞こえてしまうと、そういう細かい音ばかりを「聞こえた!聞こえない!」といっては騒ぐようになる。オーディオという病気の初期症状のひとつである。

 なにも、細かい音がよく聞こえる装置こそが優秀なオーディオというわけでもないのだが、そういうとこから枝葉末節に入っていって、ハテ?俺は何を聴くためにオーディオやってるんだっけ?と我に返るなんてこともありがちだ。

 いっぽう迫力といえば、わたしが雷様の化身と信じて密かに崇拝し、朝夕お線香をあげているトニー・ウイリアムス。今回ご紹介するのは、V.S.O.P.クインテットの『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説』だ。

 数あるトニー参加の音源のなかでも、とりわけこの「アイ・オブ・ザ・ハリケーン」における「ズドドンドドン度」は最高位に位置する。フレディ・ハバードの滑らかなフレージングを煽るように「ズドドンドドン」とバスドラが襲いかかる。床が抜けそうなこのスリリングな展開がたまらない。

 一時期、JBLの38センチウーハーで聴く、この「ズドドンドドン」にはまってしまって、ずっと「ズドドンドドンドン」といわせていた。お隣の食堂にしてみたら、「ズドドンドドン」うるさい床屋だなあと迷惑だったろうに。

 さて、この「ズドドンドドン」だが、これもただ大きなスピーカーで鳴らせば出るというものでもなく、「ズドン」を構成する高音から最低音まで同じタイミングで出ないと力強さが半減してしまう。

 このことと、繊細な細かい音が出るのはじつは同じ理屈で、時間軸に対してブレがあっては音の佇まいが変わってしまう。つまりは細かい音だけを追求してもダメ、迫力だけ出そうとしてもダメ、両立させないとこの『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説』はちゃんと鳴らないというわけである。

 特にアンコールで、「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」をやろうとして「ステラ・バイ・スターライト」になっちゃったあたりは、迫力だけのオーディオシステムだと、音が小さく、その面白みが伝わってこない。さらに、メンバー紹介でウエイン・ショーターの肉声が収録されているのだが、その声といったら、まるで彼のテナーの音にそっくりなのだ!

【収録曲一覧】
※日本盤

ディスク:1
1. アイ・オブ・ザ・ハリケーン
2. ティアドロップ
3. ドーモ
4. パパ・オリエンテ
5. ピー・ウィー
ディスク:2
1. ワン・オブ・アナザ・カインド
2. フラジャイル
3. ステラ・バイ・スターライト~オン・グリーン・ドルフィン・ストリート

※米国盤

ディスク:1
1. Opening
2. Eye of the Hurricane
3. Tear Drop
4. Domo
5. Para Oriente
6. Pee Wee
7. One of Another Kind
8. Fragile
ディスク:2
1. Opening
2. Eye of the Hurricane
3. Tear Drop
4. Domo
5. Para Oriente
6. Pee Wee
7. One of Another Kind
8. Fragile
9. Stella by Starlight
10. On Green Dolphin Street

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