――確かに、ネット上の評判を参考にしている人は多そうです。

 その点がもう一つの重要な変化です。コトラー教授は、購買後の“クチコミ”の力がとても大きくなっていると指摘します。マーケティング用語で「推奨意向」というのですが、買ったものや体験したことを、どのくらい周囲に勧めたいか。特に今、接触する情報量がどんどん増えていて、どのクチコミサイトの情報に頼ればいいのか分からない。そこで、クチコミでも、友人や信頼できる人の意見が重要になっています。つながりが大事なんですね。その場所として、オンラインのSNSが中心になっているのです。

――では、デジタル時代に対応した「マーケティング4.0」を実践している事例は、すでにあるのでしょうか?

 社会や生活者の「デジタル化」は、いきなり変わったのではなく、じわじわと進んできました。なので、顧客の変化に敏感なデジタル先進企業は、本書の発売以前から4.0的なことを試行しています。

 分かりやすいのは、無印良品(良品計画)のオムニチャネル戦略でしょう。オムニ=すべての、チャネル=経路・接点、という意味で構成されるオムニチャネルは、顧客とのあらゆる接点を把握して、一連の体験をより良いものにしようという取り組みです。

 無印はアプリ『MUJI passport』を出していて、実際にお店の近くに行くと“チェックイン”ができてマイルが貯まります。アプリ内では商品をあれこれと調べることができ、各店舗の在庫やクチコミを確認し、ECサイトに遷移してオンライン購入も簡単にできます。また、以前から顧客参加型の商品開発もしています。

――Webサイトを活用したキャンペーンも多いですね。

 キリンのキャンペーン『47都道府県の一番搾り』も好例の一つです。各地の方々との開発秘話や購入者のクチコミをWebサイトで紹介しながら、実際に各地でイベントを開催するなど、デジタルとアナログを上手に融合させてファンを増やしています。商品もよく売れているようですし、日本マーケティング協会によるマーケティング大賞にも輝いています。

――「マーケティング4.0」は、もう始まっているのですね。マーケティング自体が身近なものにも思えてきました。

 どんな組織でも、顧客がいる以上、その動きを踏まえたデジタル活用はできるはずです。ぜひ、皆さんもマーケティング・マインドにデジタル発想を取り入れて、顧客とより良い関係を築いていって欲しいと思います。