――そう考えると、顧客に何を提供すべきかという視点は、どんな仕事にも欠かせませんね。

 そう思います。フィリップ・コトラー教授が『マーケティング4.0』で指摘しているように、「デジタル化」の波が押し寄せて、企業と顧客の距離が限りなく近づき、そして対等になっています。皆さんの中にも、個人のTwitterアカウントで何気なく商品のことをつぶやいたら、企業のアカウントから返答がきて驚いた経験をした人もいるのではないでしょうか。

 デジタルは、企業にとって大きな力になる一方で、ネット発の炎上事件も相次いでいて、脅威でもあります。そんな時代だからこそ、組織で働く一人ひとりがデジタルを意識したマーケティングのマインドを備えることは、ますます大事になっていると思います。

――なるほど。『マーケティング4.0』には「スマートフォン時代の究極法則」という副題がついています。そもそもマーケティングの考え方はどのように変遷してきたのでしょうか。

 コトラー教授は前著『マーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則』の中で、「1.0は製品中心のマーケティング、2.0は顧客中心のマーケティング、そして3.0は人間中心のマーケティング」だと解説しました。

 まず優れた商品がマスに受け入れられた1.0の時代があり、次に、顧客の意見を取り入れて商品を提供するセグメント化された2.0の時代があった。さらに、自社商品を買ってくれる“お客さん”だけを見るのではなく、環境への配慮や社会にとっての好影響をしっかりと見据え、一人ひとりの“人間”に対して価値提供をする必要があるというのが、2010年に提示された3.0です。

 そして、今回発表されたのが、デジタル時代のマーケティングを解説した4.0です。

――もう「3.0」の時代は終わったと?

 そうではありません。上で述べた一連の考え方は、前時代の考え方を否定するものではありません。今でも、マスとしての顧客を対象にして、機能的価値の優れた商品を提供して大きな成果をあげることができます。これはコトラー教授の定義によると「マーケティング1.0」ですが、守備範囲は狭くなっているものの、依然としてその発想は有効です。
 ただ、世の中は確実にデジタル化している。これはもう揺るぎない事実です。デジタルが当たり前になった時代に、顧客の気持ちや動きをどう知って、ビジネスにどう活かすか。そうした考え方と戦術を教えてくれるのが「マーケティング4.0」といえます。

「『デジタル時代に対応する』とは具体的に何なのか? マーケティング4.0に学ぶ」へつづく