「自分と異なる意見を持つ人たちの共感を得るために、例えば、バーチャルリアリティー(VR)で他人の人生を体験したり、自分と異なる生活を体験したりするという試みが有効かもしれません」

 と、鈴木氏は言う。実際、VRを活用して人種差別などをなくそうという活動はすでにある。VRを研究する東京大学大学院情報理工学系研究科の鳴海拓志講師は説明する。

「VRでは、あたかも他者になったかのような体験ができます。アメリカの非営利団体が、人種差別の対策として、VRを使って白人に黒人の体験をしてもらうという取り組みを行っている。VRで自分の見た目が変わる体験をすることで、自身のものの考え方や行動が変わるといった研究結果もあります」

 さらに、鳴海講師がNTTと共同で行った研究からは、テレビ会議で表示される他者の見た目を変えることで、異なる意見を持った人たちの間で、お互いに納得のいく話し合いができるようになることがわかっている。研究では、自身のアバターを使ったテレビ会議で意見が2人対1人に分かれた場合、少数派の意見を持つ1人をテレビ会議の画面上で2人分のアバターとして表示して話し合うようにしたところ、その議論結果に対してより納得できるようになったという。

「VRで自身が『変身』や『分身』したかのような状態を作り出すことで、同調圧力を抑えたり、感情を制御したりして、異なる意見の人とも冷静な議論ができるようになるのではないでしょうか」(鳴海講師)

 一方、スマートニュースでは、利用者の興味や関心を広げる仕組みを同社のニュースアプリに入れようと検討を進めている。

「その人がもともと興味を持っている分野から広がりを作れるはずです。例えば『将棋』が趣味の人であれば、最近のニュースから『人工知能』にも興味を持つだろう。そうした新しい視点を作ったり、また『人工知能の歴史』といったようにさらに深掘りしたりして興味を広げていく支援ができるようになればいいと考えています」(鈴木氏)

 こうした、個人の興味や関心を広げることが、自分と異なる意見を受け入れる素地となり、意見の異なる人たち同士の分断の解消につながればと考えているという。

 情報のタコツボ化という、人々が自分とは異なる意見を遮断し、お互いの分断を加速する環境を作ったのがネットのテクノロジーなら、またそれを解消するのもテクノロジーなのかもしれない。(編集部・長倉克枝)

AERA 2017年7月17日号