さらに、こうしてネットで増幅された意見がテレビなどのマスメディアに取り上げられ発信されることで、既成事実化して社会を大きく動かしていく。こうした例に、2015年に起きた東京五輪のエンブレム問題がある。デザイナーの佐野研二郎氏が手がけたエンブレムデザインが盗作ではないかとの疑惑から社会的な批判が集まり、大会組織委員会は最終的にこのデザインを撤回した。この問題のきっかけとなったのが、佐野氏を批判する大量のツイートが投稿されたことだった。

 ところが、鳥海准教授とビッグデータ分析のホットリンクの榊剛史氏がこれらのツイートを詳しく分析したところ、批判的なツイートの多くは保守系やネット右翼など一部の右派コミュニティー内で発信・リツイートされ、影響力を持ったことがわかった。このことから、実際には批判的な意見は社会一般ではなくSNSの一部のコミュニティーで強まっていたが、それをマスメディアが取り上げたことであたかも社会全体の意見のようになったことが見て取れる。

●政治的分断が広がりフェイクニュースが拡大

 こうした、一部の極端な意見を持った人たちが声高に主張し、近い意見を持った人たちによってSNSで拡散され、それをマスメディアが取り上げさらに多くの人たちに拡散するという仕組みは、フェイクニュースでも同様だ。

「トランプ支持層の拡大にはSNSが影響したと言われていますが、実際は地方の人たちは都市部ほどスマートフォンを使わず、SNSをそんなに見ているわけではない。熱狂的なトランプ支持層がSNSで情報を拡散すると、それをテレビなどのマスメディアが取り上げてさらに拡散する。地方の人たちは、主にこうして取り上げられたテレビのニュースから情報を得ているのです」

 スマートニュース代表取締役会長共同CEOの鈴木健氏はこう言う。

 鈴木氏は、昨年の米大統領選挙前から全米で保守とリベラルの両陣営を視察して、フェイクニュースの背景を探ってきた。

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