カタールのムハンマド外相は米CNNの取材にそう語り、米連邦捜査局(FBI)が騒動の裏に偽ニュースの存在を確認しているとも述べた。国営カタール通信のシステムにロシアのハッカー集団が侵入し、タミム首長の発言に関する偽ニュースを仕込んだというものだった。ロシアは「証拠が皆無」などとして関与を否定したが、事実とすれば、偽ニュースが他国の外交関係に亀裂を生み出すほどの影響力を発揮したことになる。

 もともと偽ニュースは目立つニュースを偽造してサイトへのアクセス件数を稼ぎ、それに伴い広告収入を増やすことが目的で社会問題となった。それが今、激動する国際情勢を背景に、他国への内政干渉の手段として政治的に悪用される傾向が顕在化している。

●欧州の選挙で警戒続く 情報工作との見方広まる

「ローマ法王が米大統領選でトランプ氏を支持した」「クリントン氏がイスラム過激派に武器を売った」

 反クリントン色の強い偽ニュースが多く流れた昨年の米大統領選以降、今年3月のオランダ総選挙、5月のフランス大統領選、6月の英国総選挙でも偽ニュースは問題となった。米大統領選での混乱を受け、各国政府は偽ニュースの監視・即応態勢を敷いた。情報の拡散媒体となったフェイスブックやグーグルなども偽ニュース追放対策に乗り出したため、米大統領選ほどの悪影響は、どの選挙でも出なかった。それでも重要な政治日程のたびに偽ニュースが問題視される現状に、国際社会は危機感を強める。ハッキングやサイバー攻撃と一体化した他国の情報工作の一環という認識が広まっている。

 今年9月に総選挙を控えるドイツでは、ネット上で問題のある内容が掲載された場合の通報の仕組みの構築や違法な内容の24時間以内の削除を運営会社に求め、違反した場合は最大5千万ユーロ(約60億円)の罰金を科す法案を閣議決定した。また、情報セキュリティー体制を予算、人員ともに強化し、民間企業との情報共有も加速させている。今秋、総選挙を実施する可能性が出ているイタリアでも同様の罰金つき法案が検討されている。

「ロシアがサイバー攻撃で大量の政治データを集めている」(独情報機関幹部)などと主張する西欧各国は、背後にロシアの情報工作を疑っているが、逆にこれこそが偽ニュースだと反論するロシアは、あらゆる関与を否定しており、真相はやぶの中だ。

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