これは、米マサチューセッツ工科大学メディアラボ発ベンチャーのAffectiva(アフェクティバ)が開発した感情認識ソフトを使ったスマホのアプリケーションだ。人の表情から「悲しみ」「喜び」「怒り」「驚き」「恐怖」「嫌悪」「軽蔑」の7種類の感情を判別する。さらに、自動的に読み取った感情を、自動的に顔マークのスタンプのようにしてくれる。

「スマホでメッセージのやりとりをしているときに、自動的に表情を読み取って顔マークのスタンプを送ることで、文字だけでは伝えきれない感情もスムーズに伝えられますね」

 Affectivaの販売代理店のシーエーシー(東京都中央区)取締役の池谷浩二さんはこう話す。

●感情制御で嗜好も左右

 感情そのものを制御できないものか。そんな技術も進む。

「楽しいから笑う」と思われがちだが、心理学では、身体の反応が表れてから感情が芽生えることが多いと考えられている。つまり、「笑うから楽しい」のだ。

 こうした仕組みを利用すれば、人の感情を自在にコントロールできるようになるのでは。そう考えた東京大学助教の吉田成朗さんらは、テレビ会議システムの相手の表情を、画像処理で自動的に笑顔にするシステムを開発した。

 このシステムを使ってブレーンストーミングをしてもらったところ、画像処理で笑顔にした人たちでは画像処理をしない時と比べて1.5倍のアイデア量が出た。参加者のほとんどは画像処理で笑顔になったことには気づいていなかったが、笑顔になったことでポジティブな感情が生じていた。

 ただし、ずっと笑顔の相手には不信感を抱くだろう。そこで今後は、自分が笑ったときに、少し遅れてテレビ会議システムの相手の顔が笑顔になるようにした。約5分間、映画や好きな本などの話をしてもらいこのシステムを使ってみたところ、会話が生き生きとしたり、話しやすくなったりした。

「相手に感情が同調することでもコミュニケーションはポジティブになります。テレビ会議システムで表情を作り出すことで、感情の制御ができるのではないでしょうか」(吉田さん)

 ただ、画像処理で相手の表情が変わるだけで、無意識のうちに自身の感情をコントロールできるとなると、もし悪用されたら……と不安もよぎる。実際、吉田さんたちの研究では、マフラーの試着の際に表情を変えられるディスプレーを鏡として使ってもらったところ、画像処理で笑顔にしたときに試着をしたマフラーを好きだと選ぶ人が多かった。感情の制御で、ものの好き嫌いにも影響を与えるのだ。

次のページ