「(商品やサービスの)質が高くなければユーザーに受け入れられないのは当然ですが、質が高いだけでも足りないのが今の時代です。技術を高めると同時に、その技術がどれだけ人の体験を変え、どれだけ気持ちよくできるのか。われわれが、技術を体験として感じてもらうことにこだわるのは、そういうワケがあります」(森氏)

 ソニーがSXSWに出展したのはこれが初めてではない。ソニーミュージックに所属するアーティストの出演や、社内のプロジェクト単位でおのおの、SXSWに参加してきた。しかし、今年は初めて“ワンソニー”として、社を挙げての本格参戦だったという。

 なぜ、ソニーは本腰を入れてSXSWに出展したのか。森氏は「社内で“ワンソニー”としての意識が高まっているのが理由のひとつ。もうひとつは、昨年のSXSWで大きな収穫を得て、新しいビジネスアイデアを生み出すきっかけにもなった。これだけ有意義な場にワンソニーとして参加することは、自然なこと」と語る。

 2015年度にはエレクトロニクス事業の黒字化を達成したソニー。日本のエレクトロニクス業界をけん引し続けた過去を知る世代には、「あの頃のソニーをもう一度」と復活を願う気持ちもあるだろう。

 一方、20代以下の世代にとってソニーはそのようなノスタルジーの対象ではない。銀座ソニービルの改修に先立って開催された「It's a Sony展」(Part-1)には、ソニーの“黄金期”を知らない若い世代も多く訪れたという。

「個人的に印象的だったのは、かつてのソニーを知らない若い人たちが、昔のソニー製品を今のセンスで見て、純粋に“かっこいい”と思ってくれたことです。私はすでに40代後半で、かつてのソニーを懐古的に見てしまう時もあります。しかし、今の人はもっと未来志向なんですよね」(森氏)

 若者の未来志向は、ソニー社員についても同じことが言えるという。2014年より開始した新規事業創出プログラムから生まれたスマートウオッチ『wena wrist(ウェナ・リスト)』も、元となるアイデアは入社1年目の社員が出したものだ。

「若い社員らは、過去を必要以上に意識することなく、純粋にチャレンジができる会社、新しいイノベーションを起こせる会社として、ソニーを捉えている。それは、人のやらないことに挑戦するソニーのDNAそのもの。より“やんちゃ”なチャレンジを続けていければと思っています」(森氏)

 ソニーが再び世界一のイノベーティブ・ブランドとして復権するか否か。今回のSXSWへの出展は、その足がかりとなるのだろうか。