▼綱島なのに「日吉」や「大倉山」と名乗るケースも

 大正時代に温泉が見つかって以降、かつて「綱島温泉」という駅名が付けられたほどの温泉街に成長した綱島。戦後は主に米軍相手の「色町」として発展した歴史もあわせ持つ。温泉宿や温泉施設はほぼ消えてしまったものの、今も駅近くには“夜の店”が存在し、東横線の沿線ではあまり見かけない大きなラブホテルも健在だ。

 アップル建設予定地への玄関口となる駅東側は、半世紀以上前から営業を続ける駅ビルを筆頭に、古びた低い建物が密集している。周辺の狭い道路には、路線バスが1日に900回も発着しているのに歩道の整備すら十分ではない。古くから綱島に住む地元住民は、「昔ながらのイメージを嫌がる人は、住所が綱島であっても、日吉側に近いマンションや商店は『日吉』と名づけ、大倉山に近い場所では『大倉山』と名乗るケースさえある」と明かす。

▼シリコンバレーにもない「温泉+IT研究施設」

 しかし、そんな綱島の雰囲気を一変させるであろう計画が持ち上がった。新しい駅の建設だ。東急と横浜市西部を走る相模鉄道が2019年春から相互乗り入れを始めることにともない、東急東横線とは別に新たな新地下鉄の建設が決定。綱島には、もうひとつの「新綱島駅」が作られることになった。

 新駅は駅東側の地下深くに設けられるため、アップルの研究施設が本格稼働する頃には、同施設は今よりも“駅近”となるはずだ。新駅付近は区画整理が行われ、28階建てのタワーマンションや芸術ホールも建設予定。

 また、新駅の建設工事とあわせて、一時休館している綱島唯一の温泉施設が復活することも取り沙汰されている。最先端ITの研究施設の近くで、天然温泉に入浴できる可能性が高い。日本文化に造詣が深かったアップルのスティーブ・ジョブス前CEOが生きていたなら絶賛しそうだ。

 勤務地近くのタワーマンションに住み、温泉に入ってからアップルに出勤する……。そんなライフスタイルはIT先進地のシリコンバレーでもまねができないだろう。

 近未来には、昭和の温泉地が「TSUNASHIMA(綱島)」として、世界のIT界に知れ渡ることになるかもしれない。(山田功)