また、今回の電王戦FAINALが人間に有利ではないかという意見も出た。事前にプロ棋士にソフトを貸出し、事前研究ができる状態であったからだ。

 この点について、瀨名氏が「1970年代からロボカップと言ってロボットのサッカーも行われているが、毎年のようにルールが変わる。それはロボットが進化するから。電王戦も同じで人はルールと戦う。人工知能にはまだルールは作れない」と、現状のルールに改善点があると指摘した。

 これに対して、川上氏は「公平というなら、消費エネルギーも同じにしないといけない。人間の脳が消費するエネルギーと同じ量なら、コンピューターはまともに動かない」と、公平なルールについて一石を投じた。

 ルールについて、「制限なし、将棋のルールのみ」がベストではないかという意見も出た。2013年の電王戦で勝利した「GPS将棋」は、100台以上のコンピューターを並列処理しており、ハードウエアには制約がかかっていたのだが、それも人間という知性VS人工知能という対決では必要ないという意見も出た。

 山川氏は「人間の脳のように深いプログラムを作る研究は進んでいる」、平岡氏は「ponanza(ポナンザ)は自分で棋譜を作るということもできるようになってきている」とコンピューター側の将来性を強調した。

 自分で新しい指し手を生み出す将棋ソフトは、現状ではまだまだ想像しがたい。しかし、わずか10年前には「ソフトがプロ棋士に勝つのはまだまだ先」と思われていたのだ。人工知能は加速度的に進歩している。山川氏は「電王戦は人工知能の進化のトライアルの一つ。その先には“人と人工知能の共進化”が必要になってくるはずだ」と今後のプロ棋士VSコンピューターの戦いに期待を寄せた。

 これから10年後、どんな人と人工知能の共進化が起こっているのか、非常に興味深い。

(ライター・里田実彦)