古賀茂明「山本太郎の『MMT』理論はアベノミクスと本質は同じ」

週刊朝日
 選挙が終わって暗い気持ちになった。理由の一つは、投票率が50%割れとなったことだ。

 投票率が上がるのは、何かが変わると思ったときか、どうしても変えなければならないと感じたときだ。ということは、多くの人が、どうせ変わらないと考え、しかも、変わらなくてもそんなに困ることにはならないと考えていることを示す。一億総弛緩社会の始まりだ。

【写真】れいわ新選組の山本太郎代表

 安倍政権が、選挙向けフェイクを交えて庶民を安心させる言葉を並べているのに、マスコミが選挙期間中は安倍政権の問題点を報じない。このままだと政治に変化は訪れないだろう。

 暗い気持ちになったもう一つの理由は、今回の選挙戦の結果、今後の政治のテーマがバラマキ競争になることが決まったことだ。

 これには、れいわ新選組の「MMT」(現代貨幣理論)に基づく徹底的分配政策が影響している。MMTは、自国通貨建ての借金をどんなに増やしても、政府が通貨を発行して返済すればよいので、国家破たんはないという考え方だ。バラマキを続ければ景気が良くなって国民生活も向上し、財政も健全化に向かうという。

 ただし、インフレになることは認めていて、そのときは、財政を引き締めたり金利を上げれば、ハイパーインフレは防げるという。

 眉唾だと思う人は多いだろう。しかし、よく考えると、これはアベノミクスと似ている。世界に類を見ない規模に借金を増やし、公共事業、幼児教育・高校無償化などの歳出を増やす。景気が良くなれば国民が豊かになり、税収も増えて財政も健全化に向かうという。MMTと同じではないか。

 ただ、アベノミクスには、MMTと一つ大きな違いがあった。財源なきバラマキを公には否定していたことだ。だから、社会保障財源の名目で再増税を決めた。

 既成野党は、増税を否定し、明確な財源も示さないのでMMTに近い。れいわは消費税廃止まで打ち出したが、国民受けが良いということで、与野党とも安心して「財源なきバラマキ」を訴える素地が広がった。


 驚いたのは、安倍総理の「10年間消費増税なし」宣言。アベノミクスがMMTに同化した。これで、今後は、財源なきバラマキ競争になることが決まった。対立軸は、「タカ派のバラマキ」か「ハト派のバラマキ」かと言えばよいのか。

 アベノミクスとMMTのもう一つの共通点は、そのうち景気が良くなって国民生活が向上するという楽観論に何の具体的な裏打ちもないことだ。アベノミクスでは成長戦略がそれを担っていたが、結局何もできず、物価は上がったが、実質賃金は下がってしまった。

 MMTの実施は、これまで失敗したアベノミクスをさらに派手に推進するということ。円安も物価上昇ももう一段進むだろう。しかし、成長戦略なきバラマキでは、生産性は上がらず、名目賃金は上がっても実質的な生活向上は望めない。インフレが高まり、バラマキをやめるときには、日本経済は極端な不況に陥るか、それを恐れた政府がバラマキを続けて物価急上昇となるかのどちらかだ。株も土地も暴落し、中国企業が買い漁るが、それに対抗する日本企業は皆無となる。

 そう考えると、カリスマ投資家ジム・ロジャーズではないが、私も日本の若者に早く海外に出ろと言いたい。海外で大金を稼ぎ、日本が買い叩かれるときに、日本買いに入ってくれと。

 ただし、そのとき彼らがそれだけの価値を日本に見いだしてくれればの話だが……。

※週刊朝日  2019年8月9日号

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