距離をとった席の配置やアクリル板、そしてリモート出演。テレビ番組内の新型コロナウイルス対策が浸透してきたようにも思えるが、日々、現場でその状況と対峙している“プレイヤー”はどう感じているのか。日本テレビ系「シューイチ」で毎週約3時間の生放送を仕切る中山秀征(53)に話を聞いた(文・中西正男)。
トークが「遠投」になるコロナ禍の番組
――新型コロナウイルス対策として席を離してのスタジオが続いています。
「トークはキャッチボール」みたいなことも言われますけど、今、どの番組も距離をとってのトークになっています。すると、まさに「遠投」になるんです。そうなると、表情だとかが見えなかったり、相手の肩だけを信じるというか、腕が必要になってくる。リモートだと特に。これだけで、テンポ感が出なくなるんですよ。
これは確実に言えますけど、遠投ではスピード感が出ない。テンポが出ないんです。それだけで、番組って圧倒的につまんなくなるんですよ。そして、これをどうしたらいいのかという作戦も、正直、見当たらないです。
今はテレビカメラの性能も上がっているし、台数もたくさんあるから、演者に近い「寄り」の映像を並べちゃえば、画面上、距離はあまり感じないようにもできます。でも、それは技術的な部分で「そう見せてる」だけで、やっぱり、生の空気はつまんなくなります。
触れてナンボ、叩いてナンボという部分もたくさんありますからね。でも、踏み込んだ瞬間に「あ……」と思う。ためらう。「距離をとらないといけないんだ」と我に返る。「シューイチ」でも「ね、中丸君!」と一歩踏み出そうとして「あ、ダメだ…」となったりね。
また、そうしないと、見てくださる方が心配になるんです。「え、そんなに近づいて大丈夫なの?」と違和感を覚える。そうなると“不安なテレビ”になってくるんですよ。
――これは、いつか慣れるということはあるのでしょうか?
これから先もこの距離でやるというのは、オレは無理だと思います。やっぱり元の距離になっていくのが正解だと思います。今はそうしないといけないんだけど、トークを盛り上げるという観点からすると、完全にやりにくいです。これが元の距離に戻るために、ワクチンだったりとか、治療薬ができることが求められるんでしょうけど。
遠投でのキャッチボール、このスタイルになっていろいろ考えました。その結果、僕はラリーを1往復で完結させるというやり方にしました。距離が近いとパンパンとラリーを3回くらいやってたところを、1往復で終える。こちらが振って、1回で返してもらう。
距離やアクリル板があったり、リモートだったりすると、会話の「行って来い」が聞きづらかったりもする。なので、最小限で決着をつける。その振り方を意識しています。
テレビ以外にも出たコロナ禍の影響
――ただ、そのやり方が合う人、合わない人もいそうですね。
まさに、そうなんです。肩のいい人、名手と呼ばれる人は、遠投でもズバッと狙ったところに投げ込みますし、肩が強くない人には「ワンバンでもツーバンでもいいから、慌てなくてもいいから、ここに返してね」という感じでグローブを構える。
他の人の番組を見ていても、これは悪口ではなく、自分への戒めを込めて「つまんないな」と思うことが増えました。やっぱり、それくらい今のやり方は難しいんです。同じことをやっているようでも、いとも簡単に面白くなくなるんです。
――テレビ以外のお仕事にも影響は出ていますか?
今回、11年ぶりとなるミュージカル「GangShowman」(東京・日比谷シアタークリエ、9月18日~10月3日)をやるんです。久しぶりだし、新作だし、踊りもあって、タップもあって、もちろんのこと歌もあって。53歳にして、ここまで負荷がかかることをやるかねというくらい(笑)、力の入る作品になっています。
ただ、これがね、いつもだったら、まずは出演者の顔合わせ的なことがあって、そこから決起集会というか食事会をやって、食べて、飲んで「よし! やるぞ!」となるのがいつもパターンなんですけど、それがない。みんながフワッと集まって始まっていく。
本筋ではないことかもしれませんけど、それだけでも何となくスタートが違うんですよね。もちろん、皆さんプロ中のプロだし、しっかり作品を作っていくんですよ。でも、いつもの形が成立しないのがコロナ禍なんだとあらためて思いましたね。
志村けん師匠が語った「舞台への思い」
これは正直な話、久しぶりのミュージカルの時になぜコロナが……という思いもありました。ただ、志村(けん)師匠が亡くなって、また新たな思いがたくさん出てきました。
僕は若い時から本当にお世話になっていて、師匠が50歳の時からは誕生日会の幹事をやらせてもらうようにもなりました。
本当にたくさんお話を聞いてきましたけど、50歳の時に師匠が言っていたのが「オレたちは作んなきゃいけなんだよ。けいこしなきゃいけないんだよ。そうやって作ったものを見せなきゃダメなんだよ」ということ。そして数年後に舞台「志村魂」をスタートさせたんです。
今年、コロナがあって、しかも師匠が亡くなって、大切にしていた「志村魂」も本当だったら8月に予定されていたものができなくなって。でも、こんな時に僕はたまたまミュージカルをやらせてもらうことになった。
だからこそ、このモノ作りは絶対に手を抜いちゃいけない。物を作って、けいこして、お客さんの前でやる。大変な中ではあるけど全力でやりきらないと、とあらためて思ったんです。
テレビは瞬発力やその場のテクニックでやることが多いんですけど、舞台はしっかり作ったものを、準備してきたものをお見せする。二つとも全く違うものなんですけど、やっぱり二つとも頑張らないといけないんだと思います。
師匠がすごいのは、アドリブがないんですよ。アドリブに見せてるだけなんですよ。同じところで同じ間違いをするんです。みんなが「わー、けんちゃん間違えた」って思うけいこをしているんですよ。これ、みんな引っかかるんです。僕らでもわからない。でも、けいこ通りなんです。そこまで研ぎ澄まされたものを作っていた方なんです。
今年、師匠がもし「志村魂」をやっていたら、今の状況を踏まえたうえで、みんなが面白いと思うものを作っていたはずです。だから、僕も、ジャンルや方向性がまた違うのかもしれないけど、とにかく面白いものを全力で作る。よりいっそう、そう考えています。
……で、こんな感じで大丈夫なんですかね? ちょっと真面目にしゃべりすぎましたかね?(笑)
(文・中西正男)