オダギリジョー渾身の「理想の映画」 きっかけは健康診断の「よくない」結果

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オダギリジョー(おだぎり・じょー)/1976年2月16日生ま...

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

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「なんでお前は映画を撮らないんだ?」

 クリストファー・ドイルのその一言から本作は動き出した。ドイルが撮影・共同監督した映画「宵闇真珠」(2018年)にオダギリジョー監督が俳優として参加していたさなかのことだ。ドイルの言葉に、撮らない理由もないのに自制していたことに気づいた。

 さらに、監督業に駆り立てた理由がもう一つ。当時、健康診断であまり良くない結果が出たのだ。

「自分の命の限りを考えてしまったんです。やり残したことの一つに映画がありました。自分の人生をかけて、一本の映画を残しておきたい。そんな気持ちからこの企画が走り始めました」

 書きためていた脚本の中から本作を選び、まずドイルに連絡、協力を取り付けた。時代の変化に直面した初老の船頭を通して「本当に人間らしい生き方とは何か」を問う。

 物語の構想の大きなきっかけとなったのは、文化や国の在り方、社会の仕組みが日本とは全く異なるキューバに行ったことだった。

「人間らしく楽しそうに生きているキューバの人たちを見た時に、便利な社会で生きている日本人よりも充実した人生を送っているのではないかと思いました。それがうっすらながら、ずっと消えずに残っていた。幸せを感じながら生きるというのは、どちらの国の暮らし方なんだろう。そんな気持ちを脚本にしてみようと思ったのが10年くらい前のことでした」

 明治後期から大正を思わせる時代、船頭のトイチ(柄本明)は人々を舟で渡し、橋がない村と町とをつないでいた。しかし、そんな村にも文明開化の波が押し寄せる。川上では煉瓦造りの大きな橋が建設されていた……。

 もともとトイチはオダギリ監督が自身にあてて書いたキャラクターだ。柄本さんが引き受けてくれたことで、

「同業者だからこそわかる柄本さんのすごさを引き出せればと考えました」


 実際、口数の少ないトイチだが存在自体が“雄弁”だ。緑深い山奥で、大雨でも太陽がギラつく日でも黙々と舟を漕ぐ姿に耳を澄ませたくなる。

 本作を撮って良かったことを尋ねると、「やらなければよかったと思うことは一つもない」と即答。

「今回はクリスや衣装のワダエミさん、音楽のティグラン・ハマシアンという世界で活躍するスタッフや、お忙しい俳優陣の方々が集まって力を貸してくださった。本当にありがたかったです。生意気ながら、これは、自分にしか不可能な『組』であり『作品』なんだという思いがあります。それがこの映画を撮って一番良かったと思えるところです」

 オダギリ監督が考え抜いて作り上げた「理想の映画」。だが鑑賞の際は、絵のサイズといい音の付け方といい、「映画館で見ないとこの映画の良さは絶対に伝わらない」(オダギリ監督)ので、くれぐれもご注意を!

◎「ある船頭の話」
主演に柄本明を据え「本当に人間らしい生き方」を問う。全国公開中

■もう1本おすすめDVD 「宵闇真珠」

 俳優オダギリジョーがメガホンを取るきっかけとなった本作。ジェニー・シュンと共同監督を務めたクリストファー・ドイルが撮影も担当。

 舞台は時代に取り残されたような香港最後の漁村。幼少時から日光に当たるとやせ細って死んでしまう病気だと言い聞かされてきた16歳の少女(アンジェラ・ユン)は、周囲から孤立していた。彼女にとっての慰めは日没後に肌を露出し、お気に入りの場所で、お気に入りのカセットテープで音楽を聴くこと。そんな彼女がある日、どこからともなく村にやってきて丘の上に住み着いた異邦人(オダギリジョー)に出会う……。

 ウォン・カーウァイ監督作品をはじめ、1990年代香港映画ブームに一役買ったドイル。斬新な色彩やハンドカメラを使った自由奔放な映像で観る人を魅了してきた。「ある船頭の話」では土地の美しさに加え、四季折々の微妙な変化をとらえた映像に、改めて自然が息づく日本の美を発見させてもらったが、本作では時代の変化を切り取りながらも、異なるアプローチで移りゆく香港を見せる。花緑青のような色味のせいなのか、幻想的な映像にはどこか物悲しい懐かしさが漂っている。

◎「宵闇真珠」
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:ポニーキャニオン
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

※AERA 2019年9月23日号

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