米海兵隊には「出て行ってもらう」のではなく「移ってもらう」 玉城デニー沖縄県知事が提案する新たな政治的アプローチとは?

AERA
 玉城デニー沖縄県知事がアエラの単独インタビューで、「辺野古見直し」に向けた展望を明らかにした。県民投票で7割が「反対」という結果を受けてなお辺野古沖の埋め立てを続ける政府に対し、玉城知事は1日に安倍晋三首相との面談で提案した新たな協議機関「SACO with沖縄」(SACWO)設置をどう実現し、計画見直しにこぎつけようとしているのか――。

【写真】辺野古沖では、県民投票後も土砂投入が続いている

 玉城知事が最初のステップと位置付けるのが、「辺野古」の工事停止だ。玉城知事は言う。

「SACO(沖縄における日米特別行動委員会、96年に普天間飛行場の代替施設を「沖縄本島東海岸沖」に建設することなどを最終報告)の点検と見直しをもう一度、日米両政府と沖縄県できちんと話し合う。そのことを日本政府が米政府に伝え、環境を整えることが今、最優先されなければいけない。そのためにまず、辺野古の工事を停止して静謐(せいひつ)な環境の中でお互いが本当に話し合える状況をつくることが肝要です」

 だがなぜ今、SACOの再点検なのか。背景には、SACOの原点と現状とのギャップがある。たとえば、普天間飛行場の返還交渉の当事者だった元防衛事務次官の秋山昌広氏は『AERA 2016年9月5日号』でこう吐露している。

「(普天間)返還合意発表後、米軍の在沖縄基地内への移転ということだったので、一生懸命に場所探しを始めました。ヘリポートとはいえ軍のヘリは滑空して飛ぶので、ある程度の滑走路は必要になります。日本側から提案した案の一つは、700~800メートルの滑走路でした。沖縄の既存米軍施設である嘉手納基地のほか、嘉手納弾薬庫近くやキャンプ・シュワブ内では700メートルぐらいのヘリポートなら収まるだろうと考えました」

「嘉手納基地への統合に全精力を注いでいたところに、ポンと海上施設という話が飛び込んできて、それまでの作業がいっぺんにひっくり返りました。海上施設が急に出てきた背景はよく分かりません。これに呼応する形で、日米の造船業界や海洋土木業者が活発に動き始め、実際に色々な案を防衛庁の私のところにも持ち込んできました。橋本(龍太郎・当時首相)さんがなぜこれに関心を持ったかは知りません」


 日米政府はSACO最終報告後に「辺野古」での新基地建設を決定。当初、「ヘリポート」と想定されていた普天間代替施設の規模や機能はどんどん膨らんだ。1998年の県知事選で稲嶺恵一知事は「15年使用期限」や「軍民共用」の受け入れ条件を掲げて当選。しかし、沖縄県が「苦渋の選択」で受け入れた条件を反映した99年の閣議決定は、06年の在日米軍再編に伴う新たな閣議決定で一方的に破棄された。玉城知事は言う。

「そういう経緯をもう一度、再検証するべきだと思います。本当の意味で私が沖縄県知事として県民投票の結果の重さに責任を持つのは、そこ(SACWO)で現実的に議論を進めることだと思っています」

 沖縄からの問題提起は、日本の安保政策を全否定することではない。国土面積の0.6%しかない沖縄に、なぜいまだに70%を超える米軍基地が集中しているのかということだ。「あまりに多すぎる」。これに尽きるのだ。

「47都道府県で米軍基地(在日米軍専用施設)があるのは13都道府県。そのうち、2けた以上の面積比率を占めるのは沖縄だけです。しかも70%。2位の青森は9%ですから、この違いは一体どこから生まれ、どうすれば埋められていくのか、ということについて考えてもらいたいのです」

 玉城知事は普天間飛行場の「県外・国外移設」を求める背景についてこう説明する。

「自分たちのところで引き受けられるのか、国民の皆さんにまず考えてほしいんです。引き受けられないのであれば、なぜ今まで沖縄に押し付けてきたのかということを意識してほしいのです。沖縄県外の人にも問題の本質と県民の思いを共有してもらいたいのです」

 現政権は「SACWO」の設置に否定的だが、それは玉城県政にとっても織り込み済みのことだろう。現実的に見れば安倍政権はメンツにかけて、「辺野古が唯一」の看板を降ろさない可能性は高い。ただ、安倍政権の残る任期は、再延長がなければ2年余。「安倍退陣後」の政局、あるいは政権交代によって国民全体の声が盛り上がれば、「辺野古」政策の転換を促す機運は高まるとみられる。

 その際、「SACWO」の協議の枠組みが不可欠であることは再認識されるのではないか。であれば今回、県民投票結果を日米両政府に通知する場でボールを投げておくことは、現段階で考え得る最良のタイミングだったということだろう。

 問題は今後なのだ。

 自由党の元衆議院議員で、旧民主党に所属した経歴も持つ玉城知事は、現野党の政治勢力とどう向き合おうとしているのか。

「沖縄の米軍基地の7割を占める米海兵隊の駐留は、日本の抑止力とは関係がないことをはっきりと表明し、アジアの中の平和環境を構築する上で米国と良好な同盟関係を維持するというスタンスを、日本政府の『新しい勢力』は明確に打ち出せばいいと考えています」

 現政権との対抗軸となる政治勢力については、玉城知事が衆議院議員時代に行動を共にした自由党の小沢一郎代表が「野党共闘」として具現化を図ろうとしている。玉城知事が言う「新しい勢力」とは、野党共闘とそれに共感し、行動することを目的とする政治勢力を指す。

 小沢氏は民主党代表だった09年に記者会見で「軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンスは第7艦隊で十分だ」と語った。この発言について玉城知事は「在日米軍の本質をつくもの」と評価する。

「あの当時、既に小沢さんは沖縄に米海兵隊の前線基地を置く必要はないという見識をしっかり持っていました」

 米海兵隊はそもそも緊急展開部隊であり、日本防衛のための部隊ではない。

 玉城知事は小沢氏の「第7艦隊だけで十分」との見解と、「米海兵隊は日本にとって抑止力なのか」という問題設定は通底しており、実質的に「同義」であるとの認識だ。一方で玉城知事は、米海兵隊は沖縄から「出て行ってもらう」のではなく、「移ってもらう」という姿勢で政治的アプローチを図るべきだという。

「米海兵隊を『抑止力』の名目で沖縄に引き留めてきたのは日本政府です。これは虚構であり、まさに政治の悪用です。しかし、かといって沖縄から海兵隊に出て行ってもらおうとするときに、沖縄側が海兵隊を排除するという考え方に立つのではなく、『新しい世界平和の形を共に構築する』ための新しい在り方として提案すべきだと思います」

 米軍は政治の決定に基づいて動く組織だ。信頼と協力に基づく議論が、政治にとっても、政治によって動かされる組織(米軍)にとっても「重要な基本点」との認識が玉城知事にはある。

「沖縄県が求めているのは現実的な、人と人による安全保障の確立です。翁長雄志前知事もおっしゃっていましたが、沖縄をアジアや世界の平和の緩衝地帯にしたいという気持ちが私にも強くあります。これは、『万国津梁』という沖縄古来の言葉にも連なる、琉球の祖先から受け継いできた価値観を相互に信頼し合える未来へつなぐ設計図でもあるでしょう」

 玉城知事のスーツの襟元には、カラフルな丸いバッジがある。京都市内の障害者就労施設で手作りされているSDGsのバッジだ。

 玉城知事は、15年の国連サミットで採択された、持続可能な世界を実現するための30年までの国際目標であるSDGsと沖縄の将来像を重ねてこう言う。

「SDGsの目標は、これからの沖縄の将来の目標と重ねていくことができると確信しています。3年後には沖縄版SDGsの方向性を明確にしたいですね」

 沖縄版SDGsの策定に向け、ことし4月から全庁的な取り組みを始める計画だという。玉城知事の視線は、普遍的な民主主義の尊厳の在り方と重ねるように、沖縄の未来へと注がれている。(AERA編集部・渡辺豪)

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