就職率の高い大学の実力は、群を抜く「企業開拓力」

AERA
 オープンキャンパス真っ盛りのこの季節。最近では親同伴で学内を回る姿も珍しくない。教育環境や入試倍率、学費もそうだが、“出口”の就職率なども気になるところ。AERA 8月28日号で、コスパのいい進学先を調べてみた。

【図表】5年連続実就職率90%以上の大学・学部はこちら

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 むせ返るような熱気の中、オープンキャンパスを目指し続々と人が集まってくる。「受付はこちらでーす」。学生に交じって声を張り上げ、保護者を見つけては駆け寄る男性がいた。差し出す名刺には「福岡工業大学学長 下村輝夫」の文字。驚く相手に、にっこり笑って付け加える。

「学生を見ていただければうちの大学のことがわかります。ご連絡をくだされば何なりと対応いたします」

 その様子を見ながら、山下剛事務局長がつぶやいた。

「うちは学長以下、全職員が営業部隊なんです」

 20年ほど前まで福岡工業大学(福工大・福岡市)はラグビーは強いが、学業や就職では国立の九州大学や九州工業大学に遠く及ばず、志願者は年々減少していた。1997年、元福岡ダイエーホークス球団社長の鵜木洋二氏が理事長に就任。再生のために強く打ち出したのが就職力の強化だった。今や同大の実就職率は全国でもトップクラス。志願者も11年連続で増加中だ。

●東京と大阪に常駐

 アエラは今回、大学通信の協力を得て、5年連続で実就職率が90%超の全国の大学・学部を抽出した。より実態を反映させるため、実就職率は、就職者数÷(卒業者数-大学院進学者数)×100で出した。一般的な「就職率」の場合、分母を「就職希望者」とするため、フリーターになったり、就活の意欲をなくしてしまったりした学生の数を除外できる。意図的に数字を高く見せることも可能なのだ。ちなみに今春大卒の「就職率」は97.6%(文部科学省・厚生労働省調べ)。サンプルが違うため単純比較はできないが、ごまかしがきかない「実就職率」(大学通信調べ)は87.3%だ。

 今回、工学部がランクインした福工大。三澤礼一郎・就職部事務部長は「数だけでなく、最近では質も向上しています」と胸を張る。就職先にはソニーや富士通、本田技研工業や日本放送協会(NHK)などが名を連ね、上場企業と大手・中堅企業が占める割合は2014年の58.2%から昨年は70.3%に上昇した。

 強さの裏にあるのは、ずば抜けた「企業開拓力」だ。地元はもちろん、東京と大阪に企業開拓専門の職員が常駐。他の教職員も精力的に企業を回る。職員の行動規範は、「Just Do It!」。学生のためになることであれば、即実行との意識が徹底している。職員のほとんどが、民間企業からの中途採用組であることもフットワークの軽さにつながっている。その結果が、西日本で最大規模の年間800社が参加する大学主催の合同企業説明会だ。しかも8割の学生は参加企業から内定を得る。

 希望の分野があれば、関西や関東の企業にもどんどんチャレンジできるよう、新幹線代や宿泊費も補助。1回最大3万6千円で、2回まで出す。年間300人強がこの制度を使い、最近は6割の学生が関門海峡を越えるようになった。地元での就職にこだわる親の説得係も買って出る。昨年からは「企業向けのオープンキャンパス」も始めた。

「東京や大阪で企業向け説明会をやっていましたが、実際に来ていただいて、教育環境と学生の姿を見てもらったほうが効果的ですから」(山下事務局長)

 営業でどんなに企業を開拓しようと、学生が企業の求める人材でなければ就職は成立しない。同大の学生は入学時点での偏差値はそれほど高くないが、 情報工学部の前田洋教授は自信を持って言う。

「フックさえ見つかれば必ず成長するし、チャンスはうちの大学にはゴロゴロあります」

●教授が放課後補習

 同学部4年の古賀大騎さんは、大学進学者が少ない高校の出身だ。放送通信関係の仕事につき、女手一つで育ててくれている母を楽にさせたいと同大に進学。入学して驚いたのは、サポートの手厚さだったという。

「就職にも有利になる無線関係の資格を取ろうとした時、教授が放課後、何度も補習してくださいました。難関でしたがおかげで合格でき、学内で表彰されて3万円の報奨金まで出た。それで受験料を払い、次の資格取得の教材も買えました。応援されるから頑張ろうと思えました」

 古賀さんは念願かなって、来年からはNHKの技術職として一歩を踏み出す。

●アルバイト先に出向く

 福工大と対照的に、地元志向が強いのが福井大学(福井市)だ。同大は国立大学のなかでここ10年、実就職率のトップを独走。さらに大卒後3年以内の離職率が全国平均31.9%に対して、福井大は9.2%と極めて低い。その背景についてキャリア支援室の大橋祐之室長はこう話す。

「福井県は幸福度が全国1位。県内に進学した学生は地元で満足し、あまり外に出ない。人口あたりの社長の割合も全国1位で、規模は大きくなくても、優良な企業が多くあります」

 国立大としては珍しく10年以上前からキャリア支援を充実させてきた。各学科から1人ずつ教員を出して就職委員会を結成。入学から3年生までは4~5人の学生に対し1人の教員がついてさまざまな相談に乗る。4年生は卒業研究担当の教員が引き継ぐ。なかなか連絡の取れない学生とコンタクトするため、深夜にアルバイト先のコンビニに出向いたこともあるという。

 一方、キャリア支援室のスタッフは企業へこまめに足を運び、時にはPRが苦手な中小企業に、どのように発信すれば今の学生に伝わるのかもアドバイスする。企業説明会では、学生と企業の担当者がより密接に話ができるよう1社に絞った個別説明会も開く。長期休みには、県内外の企業を訪問するバスツアーも開催する。3年生を対象にした就職ガイダンスは年に60回以上。「ぶっちゃけトーク」など若者ウケするタイトルで動員を図る。

 教育地域科学部(16年度から教育学部と国際地域学部に再編)の4年生で、福井県出身の女子学生は第1志望の地元の金融機関から内定を得た。

「個別と合同、合わせて6回説明会に参加しました。公務員から志望を変えたので十分な準備ができていなかったのですが、支援室のスタッフがいろいろと相談に乗ってくれて、精神的にも助けられました」

 教育地域科学部は県の公立学校教員、市役所のほか、福井信用金庫など地元金融機関への就職が多い。工学部の学生は最近は福井県出身より東海地区出身が増えている。

 特に愛知県の学生はUターン志向が強く、自動車関係をはじめ愛知県企業とのパイプを太くして実績を上げている。そのほかアイシン・エィ・ダブリュ、JR西日本、大林組などへも就職している。就職委員長の葛生伸教授は言う。

「学生とは、教職員の誰かが必ずつながっています。就職率100%とはいきませんが、学生は100%把握しています」

(編集部/石臥薫子、ライター/柿崎明子)

※AERA 2017年8月28日号
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