阿部詩選手(左)と一二三選手(c)朝日新聞社
阿部詩選手(左)と一二三選手(c)朝日新聞社

 史上初となる同日の「きょうだい金」。25日、柔道の女子52キロ級で五輪初出場となる阿部詩が、また男子66キロ級で阿部一二三が、そろって金メダルを獲得した。

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 妹の詩が優勝した数十分後に、兄の一二三も金メダル。「(詩が)先に金メダルを取って、絶対やってやるしかない」とプレッシャーを感じなかったという一二三。その兄の勝利が決まった瞬間、まるで自分のことのように喜ぶ詩の姿が印象的だった。

 週刊誌「AERA」では、東京五輪・パラリンピックの延期が決まる直前に、阿部きょうだいにインタビューをしていた。詩は「延期になっても、自分の目指す目標は変わらない」と答えていたが、あれから1年――。コロナ禍という厳しい環境のなかで挑戦を続け、二人は「目標」を達成した。2020年4月6日号で力強く語っていたインタビューを紹介する。

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 新型コロナウイルスの感染拡大により、史上初の五輪延期が決まった。

 明日の柔道界を背負う若いきょうだいは、1年後を見据えている。

 「きょうだいで金」の夢は、1年後に持ち越しとなった。

 阿部一二三にとっては、4月に開かれる全日本選抜体重別選手権で五輪切符をつかもうとしていた直前のこと。2月に五輪代表に内定していた妹の詩は、「延期になっても自分の目指す目標は変わらない。本番に向けてしっかり準備したい」と前を向いた。

 兄と妹は同じような成長曲線を描いてきた。国内の強豪が出場する講道館杯を制したのは、ともに高校2年生の時。一二三が2017年の世界選手権で初優勝すると、18年の世界選手権では詩が初制覇した。この時、一二三も大会2連覇を果たし、きょうだいが同じ日に表彰台の頂点を独占した。「柔道史に新たな1ページを開いた」。そう国際柔道連盟が紹介するほど、インパクトの強い快挙だった。

■「五輪4連覇」と「24歳ぐらいで結婚」

 現在、22歳と19歳。家族の話は気恥ずかしくなる年頃だが、兄が妹の話を、妹が兄の話をする時、2人は互いへの尊敬の思いを隠さない。一二三が「妹に刺激をもらって切磋琢磨できている」と言えば、詩も「お兄ちゃんの柔道を見て学んできた」。詩がスーツの裏地を一二三にそろえるなど、絆の強さは普段も随所に垣間見える。

 日本発祥の柔道は、いまでは200以上の国や地域に広がった。だが、国内に目を転じれば、競技人口の減少に歯止めがかからず、井上康生や谷亮子のような国民的スターは不在の時代が続く。きょうだいで「ENEOS」のCMに起用され、インスタグラムでは一二三が11万、詩も9万のフォロワーを持つ。五輪は未経験ながら、この先の柔道界の顔になる存在だ。

 将来の青写真はそれぞれ違う。一二三は「野村忠宏さんを超える五輪4連覇」を大きな目標として掲げ、詩は「24歳ぐらいで結婚して、幸せな家庭を築きたい」。

 まずは1年後の東京五輪を見据え、高め合い、柔の道を突き進む。

(朝日新聞記者 波戸健一)