「あがら」の阪上晴郎さんは和歌山県出身(筆者撮影)
「あがら」の阪上晴郎さんは和歌山県出身(筆者撮影)

 何か手を打たねばと、地元・和歌山のラーメン店の友人と情報交換をし、ラーメン屋のノウハウを学べる専門学校にも通った。その頃出会ったのが、東京都板橋区の人気店「らあめん 元(HAJIME)」の店主・内田元さんだった。店の厳しい現状を話すと、内田さんの協力で店を立て直してもらうことになった。

「圧倒的な経験不足を感じました。自分には引き出しがあまりに少ない。1から学び直しでしたね。内田さんにプロデュースしてもらい、知識と体制が整ってきたところで、いつかやりたいと思っていた和歌山ラーメンにチャレンジすることにしました」(阪上さん)

 限定メニューとして和歌山ラーメンの提供を考えたこともあったが、片手間で作れるようなラーメンではない。スープ作りがとにかく大変なのである。和歌山ラーメンを作るにあたって、安定して豚骨を仕入れられる業者を内田さんに紹介してもらい、短時間で出汁を取れる方法を伝授してもらった。内田さんとやり取りするなかで、阪上さんは長くラーメンを作ってきたが、「基礎」を知らなかったことに気づいたという。

■「いい意味でのチープさが伝わらない」 東京の舌になじませるには…

「あがら」で目指したのは“東京でも戦える”和歌山ラーメンだ。

「東京のラーメンに慣れた舌で和歌山ラーメンを食べると『あれ?』と物足りない感覚になるものです。濃い味に慣れた舌には、地方のラーメンのいい意味でのチープさが伝わらなくなるんです。だから、『あがら』の和歌山ラーメンは、豚骨が濃くてしょうゆの味がしっかり立っているものを目指しました。東京のラーメンに慣れた人にもしっかりとインパクトを与えられるものに仕上げたんです」(阪上さん)

「あがら」の豚骨中華そばは一杯750円。本格的な和歌山ラーメンとして人気を集めている(筆者撮影)
「あがら」の豚骨中華そばは一杯750円。本格的な和歌山ラーメンとして人気を集めている(筆者撮影)

 こうして14年10月、「麺屋あがら」は完全リニューアルを果たした。阪上さんのもくろみどおり、和歌山ラーメンを出すようになってから売り上げは急増した。突然のメニュー変更に納得しない常連客もいたが、今はこのラーメンを作らせてほしいと説得して回ったという。

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人柄もラーメンも個性的